【医療法人化のシミュレーション 第5回】 ~なぜ医療法人でなければならないのか~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。

 

医療法人化シミュレーションどうでしょうか。本記事を読んでいる皆様は、既に医療法人化を辞めようと考えているのではないでしょうか。でもそれは節税のために医療法人化を行う必要が、現時点においてあるのかということを今一度問いかけてみる良い機会かと思います。

 

【医療法人の落とし穴】

<剰余金の配当>

医療法人は「剰余金の配当」を行うことができません。そのため法人内に留保された剰余金(毎年の利益の積重ね=内部留保)を法人の外に出すことが困難となりますし、承継に際しては多額の相続税等の対象になったりもします。

 

  • 内部留保を溜めないように経費を使うことはダメ!!

会社に必要以上に利益を留保したくないため、また、節税のために「経費を使え」と税理士に指示をされることもあるかと思います。ただ、これもキャッシュが外部に流れるため良くない。医療法人の大切な概念に「キャッシュフロー経営」というものがあります。税金の最小化を目指すのか、キャッシュの最大化を目指すのかを今一度確認してください。安定経営はキャッシュの最大化によってのみ達成されるとご認識ください。ただし、内部留保のバランスの検討は重要ですので、両面からの確認が必要です。

 

  • いろいろなスキームを作って役員に利益を移転することも認められない!!

会社に利益を留保したくないため、かつ、キャッシュを外部に流さないため、役員に利益を移転させようといろいろなスキームを考えます。例えば、役員やMS法人などから資産を賃借して過大な賃借料を支払うこと、他には役員の保有不動産につき医業収入に応じた定率の賃料を支払うこと、過大な退職金を支払うこと、役員に対して債務保証を行うことなど、これらは「配当類似行為」と呼ばれて実質的には配当と同じとみなされます。結局理由をつけて役員に対する剰余金の処分が行えないようになっているのです。

 

  • 内部留保を溜めないように保険に入って節税しようも要検討!!

個人で生命保険料をいくら増額しても12万円の控除しか取れません。それならば損金算入できる法人契約の生命保険によって節税を試みるドクターも多くいます。ただし、これにも2つの罠があります。

 

①返戻金と税金を勘案して解約後に手元に残るお金を計算すると何もしない方が得なことがほとんど

②返戻金は最後に戻ってくるお金であるためキャッシュが先に出ていく(資金繰り阻害要因)

 

言葉を選ばずにいうと「保険が節税になる時代は終わった」ということです。保険は必要だから入る以外の選択肢は今の時代には持たない方が良いのです。

もし、行うのであれば、働いているドクターの福利厚生の一環として、生命保険料の支払いをすべてのドクターのために行っていくというようなことです。給与の昇給であれば、彼らドクターの所得に該当し、それだけ個人の税率はアップしてしまいます。所得が増えないように昇給の代わりにドクターの(個人の)必要経費を会社で払ってあげるというようなスキームの検討になります。

 

<解散時の残余財産>

クリニックの法人化も過去であれば有効な手段であったかもしれません。MS法人という概念がなかったころは会社(クリニック)機能の切出しという概念ももちろんありません。法人化によって家族を役員として最大限の給与所得控除を利用することができました。法人化を進めるドクターはややもすれば年輩の方が多いかもしれません。もちろん昔はよかった。

 

ただ、それだけでなく、平成18年の医療法の改正によって更に医療法人化の意義がなくなりました。この改正により、社員に対して持分を定めることができなくなっただけではなく、解散時の残余財産の帰属先が「国、地方公共団体、公的医療機関の開設者、医療法人財団、持分の定めのない医療法人社団」の中から選ぶこととなったのです。

 

上記の剰余金の配当と組み合わせると、「利益を会社に留保するとその使い道がなく、たっぷり溜まった利益を最終的には国に徴収される」と同義になったのです。この改正により、持分がないため、事業承継の際に相続税の対象とはならなくなりましたが、50%を超える最高税率の相続税が100%に増税されたようなイメージを持ってしまいます。

 

解散時に自分へ取り返すことができない。普通の会社ならそんなことはあり得ません。非営利性(公益性)の担保が歪んだ形で利用されているようにも感じます。これが最大のデメリット。

 

これがあるだけで、節税のための医療法人化は“やめてください”一択です。

 

一定の節税効果はあるけれどキャッシュフローで後悔しているドクターが多い、剰余金の配当が行えず解散時には残余財産を国に徴収されてしまうなどの種々の面からみても、医療法人化は節税目的だけで行うことはリスクが高く、おおっぴらに勧めることはできません。

 

【医療法人化の判断】

①事業の拡大目的(規模の大きな医療行為を行いたい)

②事業承継目的(永続的に親族経営=相続税対策)

③万一への備え(院長が亡くなっても路頭に迷わせない)

 

MS法人ではこれらは達成することができませんので、医療法人化は節税目的でなくて、これらの目的から検討をはじめるのが良いかと思います。

 

それでも節税目的で医療法人を検討するドクターが後をたちません。もう一度、医療法人化のメリットとして、よく言われる(ネットに溢れる)節税効果について確認してみましょう。

 

【医療法人化の節税効果】

①所得の分散 ⇒MS法人で可能

②給与所得控除 ⇒MS法人で一定分のみ可能

③法人税率が低い ⇒MS法人で可能

④生命保険料の損金算入 ⇒MS法人で可能

⑤消費税の免税事業者 ⇒MS法人で一定分可能

 

どうでしょうか。MS法人の設立で十分ではありませんか。それでも医療法人化を行いたいですか。

次回からはそれでも医療法人化を行いたいドクターの皆様に「医療法人化への道シリーズ」を、節税のためのMS法人設立についてもっと知りたいというドクターの皆様に「MS法人設立への道シリーズ」の2本立てで執筆してまいります。引き続き、お楽しみに!

 

※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。

【医療法人化のシミュレーション 第5回】 ~なぜ医療法人でなければならないのか~