皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。
「締めが遅い」、「数字が出るのが月末近く」、そんな月次決算の悩みを、「5営業日で確定する-Day5-」に引き上げるための実装手順を、法令要件と運用設計の双方から整理します。年末繁忙に入る前の今こそ、短期集中で仕組み化しておきましょう。
〖ゴールの設定(要件定義)〗
まず必ずしてもらいたいのがゴールの設定です(何を、いつまでに、誰に対して、どのように)。
- Day3:一次速報(暫定PL・主要KPI)
- Day5:確定版(月次BS・PL・CF、部門別)
- Day5:経営会議レビュー/差異分析(予算比・前月比・前年同月比)
「ゴールの設定」が曖昧だと“終わらない月次決算”になります。「客観性や妥当性」は四半期・年次に寄せ、月次は「重要性」に寄せてスピードを優先します。
〖設計原則:T+1※・前倒し・見越計上〗
Day5を実現する原則は3つです。
- T+1原則:入出金・販売・仕入等の主要取引は、翌営業日までに「受付→検証/承認→会計記録」を完結するルール化。⇒部をまたぐためこれが難しい
- 前倒し運用:必要書類につきDay1でほぼ揃う体制を作る。
- 見越・概算の活用:未着請求・未検収は合理的な見積で計上/翌月反転(経常的な費用は見積テンプレート化)。
※Transaction day +1:取引翌営業日を表します。
〖プロセス分解とレベル感設定(部門別の締切約束)〗
部門→経理の受け渡しを明文化します(各項目は“必須項目・責任者・SLA=service level agreement”を一覧表に)。
- 売上:計上基準(出荷/検収/役務完了)を一元化。販売管理システムの締めバッチはDay1午前中。
- 仕入/外注:検収データの確定をDay1午後中、未着は見越し計上。
- 経費/立替:ワークフローでDay1 18:00提出締切。
- 勤怠/給与:変動項目は前月20日締め等の“前月確定”に寄せる。
- 在庫:ロールイング棚卸(品目の重要性に係る棚卸手法)によりDay2で差異確定。
- 資金:入出金消込は毎日T+1/月末跨ぎはDay1で完了。
〖法令・保存要件に沿った“電子先行”〗
月次決算早期化のためには紙脱却がマストです。電帳法とインボイスの要件に沿って「最短で正しく電子化」します。電帳法対応のレベル感は会社によります。
- 電子取引データの保存義務:電子で受入れた請求書・領収書等は電子のまま保存(検索要件等)。運用としては訂正削除の防止・事務処理規程の整備がポイント。
- 適格請求書の必須記載と保存:仕入税額控除には、登録番号・取引日・税率区分・税額等の記載が必要。保存期間は原則7年(申告期限延長法人は「末日翌日から3か月を経過した日」起算)。
- 国税関係帳簿書類の保存期間:申告期限の翌日から7年(欠損金等のある事業年度は10年)。
これらの要件を満たすことで、T+1での記録が現実的になります。紙でやってたら5営業日月次は絶対に達成できません。
〖月次仕訳の“自動化テンプレート”〗
- 定例仕訳:減価償却/引当/前払・前受の振替はルール化してスケジュール自動仕訳。
- 見越仕訳:通信費・SaaS・広告・地代等は請求単価×利用実績テンプレでDay1に一括仕訳。
- 差異検出:予算×勘定科目×部門の許容乖離率(例:±5% or ±50千円)を設定し、閾値超のみ要レビュー。
〖税務締めの留意点〗
- 源泉所得税:翌月10日納付(納期の特例あり)。源泉計上漏れは法定納期限が動かないため、月次での見落としは致命傷。
- 法人税・消費税の確定申告期限:いずれも原則課税期間末の翌日から2か月以内(法人税は確定申告期限延長の特例あり/消費税も延長届出で連動)。四半期・年次の早期化に直結。※中間申告は紙ベースの納付書が廃止となっているため見落としに注意。
〖チェックリスト:Day-2~Day5の運用〗
Day-2
- 未承認ワークフロー“ゼロ”/未着請求見込みの把握
- 大口売上・外注の検収実績の一次ロック
Day-1
- 銀行データ自動取込/入出金の未消込ゼロ
- 在庫差異の原因特定(倉庫・現場との最終調整)
Day1
- 売上・原価の確定/見越の一括仕訳
- 経費の未着リストを部門長へ自動通知
Day3
- P/L速報配信/主要勘定の分析表
- 重要性基準超の差異にタスク化コメント
Day5
- BS・CF確定/経営会議で差異・是正案・リスク共有
- 翌月への「対策事項(KPI化・SLA修正)を登録
〖90日導入ロードマップ(年末繁忙前の駆け込みプラン)〗
Phase1(0~2週):現状診断(締めカレンダー/SLA=Service Level Agreement/マスタ整備度/未着構造)。
Phase2(3~6週):プロセス設計(T+1導線/見越テンプレ/権限・職務分掌)、電帳法運用規程とインボイス保存運用を整備。
Phase3(7~10週):並行運用→Day5本番/差異是正フローをタスク管理に実装。
Phase4(11~12週):定着化(KPIモニタリング/月次レビュー会の標準化)。
〖よくある詰まりポイントと対処〗
- 未着請求の慢性化:ベンダと締めSLA=Service Level Agreementを契約条項化/締め前日自動催促。※これがけっこう難しい
- 紙の混在:電子授受の原則化(メール添付・ポータル受領も電子取引に該当し電子保存が必要)。 ※紙ダメ絶対
- 在庫差異:入出庫のリアルタイム記録とロールイング棚卸で吸収。※重要性判断を入れる
- 完璧主義による遅延:重要性基準を運用規程に明記し、D+5で確定→翌月更正で是正に徹する。※月次はスピード、四半期・年次は完璧
おわりに
Day5は“根性論”ではなく、SLA×見越×電子保存×自動化の設計問題(要は仕組み化)です。
本稿が、皆さまの「早く・正しく・使える」月次決算づくりのヒントになれば幸いです。運用規程やSLAのひな形作成、90日導入の伴走も承っています。お気軽にご相談ください。
【筆者紹介】
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはアメリカに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にアメリカ移転価格税制協力会の発起人としてアメリカ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる