赴任初年度の確定申告

税理士の片瀬です。海外赴任者の一番気になる税金は、やはり「個人所得税」ですね。海外に赴任したことによって自分が不利になることがあったら目も当てられません。ただし、会社によっては、個人所得税についての理解が追い付いていない場合もあるため、身を守るために自身で情報を集め、具体的に確認することが重要です。

まず前提として給与所得以外に所得がない場合には、年末調整を行います。確定申告はその他の所得があるとき等なので、まずは年末調整で済むかどうかの確認から行います。

【年末調整を行う場合】

扶養控除等(異動)申告書を提出した居住者で、その年の年末調整の対象となるその年中に支払うべきことが確定した給与等の支給額が2,000万円以下である者が、1年以上の予定で海外に転勤することになった場合には、給与等の支払を行う者は、その居住者が海外に出国する日までに、年末調整をしなければなりません。

※社会保険料・生命保険料の控除は、出国日までに支払われたもの
※扶養控除・配偶者控除等は出国時に控除の対象となる者に係るもの
※医療費控除や住宅ローン控除等の適用を受ける場合などは確定申告書の提出や納税管理人の届出書が必要となる可能性があるため注意が必要

次に、重要なことは納税管理人(確定申告を代理で行ってもらうイメージの者)を選定する場合と選定しない場合によって、確定申告を行う場合も差異が生じるということです。

【確定申告を行う場合】

①納税管理人を選任している場合(所得税法2条、国税通則法117条)

その年の1月1日から海外勤務者として赴任する日までの居住者であった期間に生じた給与所得及びその他総合課税の適用を受ける全ての国内源泉所得(以下、「特定の国内源泉所得」という。)と、海外勤務者として赴任した日からその年の12月31日までに生じた特定の国内源泉所得について、納税管理人を選任している場合には、海外勤務者として赴任した年の翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行います。

②納税管理人を選任していない場合(所得税法127条)

その年の1月1日から海外勤務者として赴任するまでの居住者であった期間に生じた給与所得以外の所得の金額があり、納税管理人の選任をしていない場合には、その出国の時までに確定申告を行います。

注1)国内に住所居所を有さない場合又は有さないこととなる場合において、確定申告書の提出等が必要であるとき(上記の「特定の国内源泉所得」があるときなど)には納税管理人の選任を行わなければなりません。
注2)その居住者であった期間に給与所得以外の所得が生じていない場合には、出国時に年末調整が行われるだけであり、確定申告の必要はありません(所得税法121条)。ただし、赴任時までの給与所得の総額が2千万円を超える場合には、確定申告が必要となります。

また、提出期限以外に確定申告における諸控除の判定時期についても、①納税管理人を選任しているか、②納税管理人を選任していないか、によってそれぞれ取り扱いが異なります。

①納税管理人を選任している場合(所得税法基本通達165条、所得税法102条)

所得税法上の出国(所得税法2条)とは、納税管理人を定めないで、居住者が国内に住所及び居所を有さなくなること及び非居住者が国内に居所を有さなくなることをいいます。そのため確定申告における諸控除の判定時期について、納税管理人を選任している場合には、通常の確定申告における諸控除の判定に準ずることになり、その判定時期は12月31日となります。したがって、その期間において諸控除の増加(例えば扶養家族の増加など)があった場合には、翌年の確定申告時期において、還付申告書を提出することができます。

②納税管理人を選任していない場合(所得税法基本通達165条)

納税管理人を定めないで、居住者が国内に住所及び居所を有さなくなる場合には、所得税法上の出国があったものとされるために、確定申告における諸控除の判定時期については居住者でないこととなる時(出国日)となります。

最後に納税管理人を選任した場合と、選任していない場合の確定申告書の提出地(納税地)についても、それぞれ確認してみましょう。

①納税管理人を選任している場合

納税管理人の届出を行っている場合には、次のいずれかの場所の所轄税務署長に対し、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告書を提出します。

<いずれかの場所(所得税法15条)>

・国内に事業を行う事務所等がある場合には、その事務所等の所在地
・上記の事業所等を有さず、かつ、その納税地とされていた場所にその者の親族等が引き続き居住している場合には、その納税地とされていた場所
・上記に掲げる場合を除き、不動産の貸付等の対価を受ける場合には、その貸付けた資産の所在地
・その他の場合には、政令で定める場所

②納税管理人を選任していない場合

納税管理人の届出を行っていない場合の確定申告書の提出については、その出国時の直前の住所地の所轄税務署長(住所地以外を納税地としていた場合には、その納税地の所轄税務署長)に対し、居住者でないこととなる時(出国日)までに行います。

このように確定申告を行うことを1つとっても手続きが煩雑ですので、申告漏れを起こさないためにも専門家への確認は必要となります。

【記事まとめ】

①赴任初年度の確定申告

②赴任した翌年度以降の確定申告

③帰国した年度の確定申告