皆様こんにちは。税理士の片瀬です。
先日、企業研究会にて、定期開催の国際税務セミナーの講師を務ました。その中でPE認定課税の事例(サービスPE・代理人PE)を詳細に話したのですが、、、セミナー終了後に、このPE認定に関する質問が多くあったので、その事例を1つ挙げてコラムにてお伝えします。
早速ですが、みなさんの会社でテレワークは普及していますか?
多くの会社において、テレワークのみでも業務が完結するのではないでしょうか。もちろん会社としてテレワークを推進すべきか否かという話ではありません。今後の多様な従業員のライフステージにおける手段としてテレワークは確固たる地位を築いています。
テレワークで完結するのであれば、従業員は住むところを選びません。自然の多い環境で子育てをしながら東京の会社の仕事をすることもできます。今までは会社を辞めるしかなかった環境や状況におかれても、テレワークでなら仕事を続けることができます。
優秀な人材はテレワークでも残ってくれたら会社にとって最高にハッピーなので、今多くの会社が従業員の退職時に「テレワークで継続してくれないか」という交渉をしています。
これが日本国内であれば問題はありません。問題は海外でのテレワーク(越境リモートワーク)の場合です。
Q:従業員が配偶者の海外赴任へ帯同することになり退職届を提出してきました。優秀な人材であったので、会社として、海外からのテレワークでもよいから残って欲しいと伝え、その従業員もそれならと了承しました。
優秀な従業員に残って欲しいという思いだけで引き止めましたが、、、この場合の税務リスク等はどのようなものでしょうか?
これが本日のコラムの内容です。ありそうな状況ですが、非常に難しい内容です。越境リモートワークの場合の、税務リスク等について概観を確認していきましょう。
①帯同VISAで就労できるのか問題
②所得の源泉地はどの国になるのか問題
③PE認定されてしまうのか問題
日本の会社との雇用契約下において、いわゆるホームオフィス(海外の自宅)で仕事をする場合には、様々な課題を検討しなければなりません。その中でも、体系的に分類すると上記のこの3つ、この①~③の3つの課題についてまずは確認しなければなりません。
国によって詳細なルールは異なりますので、普遍的な考え方のみを記載します。この3つの考え方を、具体的な検討の発端として、各国のルールを確認してもらえれば幸いです。
①帯同VISAで就労できるのか問題
基本的に帯同VISAで就労はできません。VISAの切り替えやワークパーミットをどうするのか問題があります。そもそもその国には就労する会社が無いのにVISAやワークパーミットを取得することができるのか。詳細に確認しなければなりません。
②所得の源泉地はどこになるのか問題
海外のホームオフィスでの勤務となるため日本の国外源泉所得になります。また、日本の非居住者となるでしょう。そのため原則的に日本では税金がかからず、ホームオフィス所在国で個人所得税を納めることになります。ただし、この場合もその国には就労する会社が無いのに税金を支払うことができるのか。日本本社が当該リモートワーカーのために源泉徴収することになるのか。こちらも詳細に確認しなければなりません。
③PE認定されてしまうのか問題
ホームオフィスPEについては、いまだに各国とも明確な取り扱いは出ていないのではと思います。既存のPEの規定だけを鑑みると、おそらくホームオフィスでの在宅勤務はPE認定されてしまうのではないかと考えています。
この部分、コロナ禍において、OECDからのガイダンスが出されています。「ホームオフィスで在宅勤務する場合には、企業の事業を行う一定の場所としてのPEを構成しない」というものですが、これはコロナ禍における特別なガイダンスであり永続的なルールではないとの認識が必要です。
コロナが収束した昨今においては、ホームオフィスは永続性をもった「企業の事業を行う一定の場所」とされる可能性が高まってきているものと感じます。
※注意点
雇用契約から業務委託契約に変更して、当該従業員に業務を依頼するという方式を取る会社もありますが、同様にこれらの問題は発生することとなります(PE認定はホームオフィスPEから代理人PEに論点等は変更しますが・・)。
また、この問題に対応するための雇用代行(Employer of Record)などのサービスが各国にはありますが、ホームオフィスの所在国と日本の両面の法律や文化に対応するわけではなく、日本企業からすると使いづらいサービスでもあるのでご注意ください。
いかがでしたでしょうか。なかなか難しい内容ですね。多様な働き方に対する法整備は各国において追いついていない部分も多いため、会社によってどのように取り扱うかの国際税務に係るポリシーをしっかりと持つことが重要です。
【筆者紹介】
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる