財務分析の本質~目に見えるものがすべて~

皆さんこんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今日は少し私が使う財務コンサル手法をお伝えしようと思います。私がお客さんに対して財務コンサルを行う上で大切にしているものに「視覚化」というものがあります。今日は数字の「視覚化」について掘り下げて、説明できればと思います。まずは次の図を確認してみてください。

【プロフィットツリー(A社)】

これは私がクライアントに対し、決算書からの財務分析をするため(多くの場合にはKPI設定のため、つまり「視覚化」⇒「比較分析」⇒「ボトルネックの発掘」⇒「価値ドライバーの確認」⇒「KPI設定」という流れ)、年次レポート又は月次レポートによく入れる「プロフィットツリー」というものです(数字は適当に作っています)。決算書ではただの数字の羅列だったものが、「プロフィットツリー」にした途端、生きた数字になるように感じませんか?

●これが数字の「視覚化」です。

数字の「視覚化」は、“(従業員が)改善行動を起こせるレベル”、“(従業員を)担当者として明確に決められるレベル”まで突き詰めて考えます。この際のポイントは2つ。

①同業他社との比較

②事業部(営業個々人)への更なるブレイクダウン

ただ、自社でどれだけ調べても上場企業でない限りは同業他社の数字を入手するのは非常に難しいのが現状です。自社では入手が難しいので、誰かに頼まなければ入手することがままならないのですが、、、

皆さんは、誰がこの数字をもっていると思いますか?そうです。会計事務所がこれらの数字を多く保有しているのです(もちろん守秘義務があるので、具体的な数字を教えることはできないと思いますが、コンサルやっていれば業種ごとの平均値はおおまかに把握していますし、我々はDBを保有しているため、DBに数字が入っている企業の数字は取れます)。つまり、月次顧問料を毎月支払っていて、「同業他社と比較してうちはどうなの?」という質問をしないのは非常にもったいない。試しに質問してみれば、きっと顧問事務所が貴社の問題点をピックアップしてくれるものと思います。さて、仮に上記のプロフィットツリーの会社をA社として、この会社の競合をB社としましょう。B社のプロフィットツリーは以下の通りです(説明の都合上赤枠の中身だけ変更(入替)しています)。

【プロフィットツリー(B社)】

同業他社のB社は営業債権が400であり、売上が4213なので債権の回収サイトは約1月です。それに比べA社は営業債権が1373(売上は変わらず)で、債権の回収サイトは約3か月。なぜ回収サイトが3倍も違うのか?また、両社とも支払サイトは約2か月なので、A社において回収が3か月では資金繰りがショートする可能性はないのか?このあたりを確認する必要がありそうですね。

反対に、B社は棚卸資産が1373であり、材料費が1333、在庫が1回転するのに1年もかかってしまいます。同業他社のA社は棚卸資産が400なので、在庫は4か月で回転します。B社は過去からの滞留在庫がありそうなので調べてみる必要があります。

●ベンチマークを用いない財務分析はあまり意味がありません。根拠がないので。

同業他社との比較が終わり、問題となりそうな個所のピックアップが済んだのであれば、その数字を更にブレイクダウンしてみていくことになります。収益部門が複数あるのであれば、収益部門ごとにプロフィットツリーを作る必要がありますし、もっと詳細な分析が必要であれば営業個々人ごとにプロフィットツリーを作ることも可能です。「視覚化」⇒「比較分析」⇒「ボトルネックの発掘」⇒「価値ドライバーの確認」⇒「KPI設定」という流れは先に説明した通りですが、このプロフィットツリーを入り口とした財務分析については、経営者のためのKPI設定のみではなく、その先の従業員のための「行動計画の作成」(「KPI設定」を基にした「行動計画作成」)にまで紐づくものとなります。KPI設定は何も上場企業のためのものではなく、中小企業においてもKPIを設定して、経営判断及び行動計画を設定することは非常に有意義なものなのです。

●事業計画の策定の真の目的は、KPI設定及び行動計画作成。

●各事業年度120%増で事業計画を作るなどの「積上方式」による事業計画の策定は考え方自体が古い。5年後の未来を想像し、そこから事業計画をブレイクダウンする「逆算方式」で作ることが必要。

また、このKPIという指標は、経営者と従業員をつなぐ「連結環」の役割を果たします。従業員がKPIを基にした自身の行動計画を常に認識していることが重要であり、そのために従業員においても視覚的に問題点を把握させることこそ、改善の第一歩です。経営者にとって重要なことは、一連のストーリーをもって従業員と対話ができるかとなります(なぜその行動が必要なのかを理論的に説明するストーリー)。

●対話のストーリーを税理士が作る。作れない税理士はコンサルタントとしては活きていない。

ただし、問題点を把握してもそれが現実的に改善できない項目である場合も考えられます(例えば親会社からの指示で回収サイトが3か月になっているなど)。そのために次は行動計画の精査です。行動計画を決定するにあたり、業務フロー、ロジックツリー、トレードオフなどによる仮説の設定が非常に大切になります。業務フローは会社の中の改善ですが、ロジックツリーやトレードオフでは会社の外の改善まで目を広げてみてください(外の改善の際に重要なことは、“キーマン”の発掘です)。ロジックツリーを作るポイントは、“なぜ”そうなっているかを考え続けること。トレードオフを把握するポイントは、“全体像”を把握すること。(イメージとしては、ロジックツリーが縦の階層でトレードオフが横の階層です。)

仮説を立てた後は情報収集です。“外的要因”と“内的要因”から仮説が実行可能かの検証を行います。この場合の外的要因による検証とは、上記の同業他社の分析、類似商品の分析などによる実行可能性の判断となります。この実行可能性の判断はコンサルの力が必要になるところですが、本格的にやる場合には、“同業他社インタビュー”や“アンケート調査”などによる客観性が必要になります(会計事務所においても一般論として伝えることは可能ですが、業務改善コンサルなどの実務でクライアントにレポーティングする際に「経験により」とはあまり書けません)ので、何とも難しいところではあります。

●実務において、この部分は業務改善となることが多いです(効果は未知数であり、可能性の範囲のため)。行動計画作成⇒振り返り⇒業務改善⇒新行動計画作成。

これらにより、実行可能であるものを列挙し、行動計画として確立します。そして優先順位付け(当初の段階で優先順位はほぼ決定している)を行い、改善行動に移るのです。改善行動による成果がしっかりとでているかのチェックは月次顧問の範囲内(記帳代行業務ではない)で行います。

本来は“財務分析”と“業務フロー分析”から「行動計画の作成(過去の行動計画の精査・改善=業務改善)」を行うべきであり、そのためにまず必要となることが「視覚化」なのです。「視覚化」しなければ良いアイデアは浮かんできません。ゆっくりでも良いし、コンサルに頼んでも良いと思いますので、まずはこの「視覚化」を達成してもらえればと思います。

さて今回のブログはいかがでしたでしょうか。本当は“ロジックツリー”や“トレードオフ”についても図を挿入しようと思っていたのですが、思いの他大変で・・・・・(笑)。もちろん面白いテーマなので、小出しにしていこうとは思っています。すぐに知りたいという方は、個別に聞いていただければ幸いです。