会計コンサルという仕事~需給のミスマッチにせまる~

皆様こんにちは、JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。

今回のコラムのタイトルは「会計コンサルという仕事~需給のミスマッチにせまる~」です。会計業界が凄まじいスピードで変遷する中、会計コンサルについてもその在り様が大きく変わろうとしています。私自身、会計税務の専門家として長年活動してきました。そんな私が日頃感じていることを今日は記事にしようかと思います。お付き合いいただければ幸いです。※下記は主に中小企業に対するコンサルをイメージして執筆。

●逆説的な始まりとなり大変恐縮ですが、、、私は常々会計コンサルに限界を感じています。原価がかからず、初期投資も必要ない、己の知識だけで勝負できる会計コンサルになぜ限界を感じるのか?

私が限界を感じる大きなポイントは、「需給バランス」です。会計コンサルに限らずコンサル業というものは需給バランスが歪んでいます。目に見える需要は基本的には存在しないのに、コンサルタントは専門家という名の下に営業に行き、(会社の悩んでいるポイントは同じという考えから)需要を自身で作り出すということが行われます。度々、コンサルタントの業務は「クライアントの需要の発掘だ」と耳にします。「需要の発掘」であれば良いのですが、中小企業に対するコンサルの“それは”得てして「(コンサルタントによる)需要の創造」になってしまっている。これが非常に問題なのです。

誤解を恐れずにいうと、コンサルタントは医者で会社は患者です。医者から「あなたは病気にかかっています。今すぐ手術しなければ取り返しのつかないことが起こってしまいます。」と言われたらどうしますか?医者が病気を作り上げて、自作自演の手術をする。こんなことが横行されていたらどう思いますか?コンサル業界に蔓延るマッチポンプ。・・・なのでコンサルは忌み嫌われるものなのだと思います。

クライアントに話を聞きに行くと、多くの方から「以前、こんなコンサルを入れたけど上手くいかなかった」という声をいただきますが、なぜこれほどまでにコンサルは成果がでないのでしょうか。それは、会社もコンサルも“お互いにお互いのことを知らないから”という言葉に尽きるかと思います。ほとんどのコンサルがその運用段階において失敗しています。私は以前所属していた会社において、コンサルは営業の段階で8割完了していると教えられてきました。これは(コンサルとして生計を立てていくための)真理であると思いますが、かなりの危うさを含んでいます。

●コンサルの成立は営業段階、失敗は運用段階、ここからもわかる通り、かなり危ういですよね・・・

上記で医者の例を出したので、この例を引き続き使ってみようと思います。皆様が医者にかかるときを想像してみてください。悪いところが分かっている場合には、「熱が39度あります。」と悪い症状(箇所)を伝えます。これは会社においても「売掛金の滞留が100万円あります。」と同様に伝えるので問題はありません。しかし、悪いところが分かっていない場合に大きな問題があります。コンサルが対クライアントに対して行っていることを医者と患者の会話に当てはめてみます。

患者:「私の健康診断の結果はどうでしたか?」

医者:「血液検査の結果、肝臓の働きが悪いですね。」

患者:「どうすれば良いですか?」

医者:「手術しましょう。(その後に長々と手術の説明)」

※これではコンサルの評判が良くないのもしょうがないのかもしれません・・・。

上記で「会社もコンサルもお互いに知らないから」と記載しましたが、財務諸表は健康診断表です。それを見て(もしくは見もせずに、又は、精密検査をしもせずに)手術をしましょうとは、普通に考えたらあり得ない話です。ただし、会社もコンサルとは何かを知らず、コンサルタント自身も会社(営業先)の内情を知らずにコンサルによるバラ色の結果だけを熱心に伝えるので、コンサルを入れても思った通りの成果が出ないのです。※これはシステムの導入においても同じことが言えます。

少なくとも医者であれば、「健康診断」の後に、「精密検査」を複数回行い、「病気の内容説明」をし、「自然治癒しない旨説明」し、「手術の内容説明」し、患者が「手術の可否」を判断し、最終的に「手術」を行います。

例えば、在庫回転率が同業他社に比べてかなり悪く、キャッシュフローに影響を与えているという健康診断の結果があったとします。その原因は購入意思決定に問題があるのか、営業活動に問題があるのか、製造に問題があるのか、在庫管理に問題があるのか、しっかりと精密検査を行ってどこに問題があるのかを調べます。そして、その後に手術をするか、対処療法にするのかの意思決定が行われるのです。

健康診断⇒精密検査⇒手術までの一連の流れをぶつ切りで考えてしまってもいけません。健康診断の結果をもってどこに問題があるかを予測し、予測したところに実際に問題があるかの精密検査を行い、問題があった場合に初めて手術をするのです。(大手コンサル会社が行う)内部統制のコンサルや業務改善のコンサルが高額になる理由は、体中の“正常(であると確信できる)部分”に対しても精密検査を行っているためです(網羅性の要件があるので仕方ない部分はあります)。しかし、健康診断の結果により、ある程度問題があると予想される箇所を絞ってそこに対して精密検査を行うこの流れであれば、そこまで高額にはなりません。

●(再度)なぜコンサルに限界を感じるのか?

さて、最初に私がコンサルに限界を感じているといった理由を再度考えてみたいと思います。需給バランスという言葉を使いましたが、供給はいくらでもあるのに需要があるかどうかを確認する手立てが主にヒアリング以外にはなく、需要が“潜在需要”として隠れてしまっていることが問題なのです。そしてヒアリングによって“潜在需要の発掘”をするのですが、多くのコンサルタントが“需要の創造(コンサルタントが自身の得意領域へ誘導し創造する)”をしてしまっているために、コンサルと聞くと過剰に反応する方が出てきてしまうのです。そして、このようなコンサルは廃れ、遠くない未来に潜在需要の発掘は発達したAIが行うようになるでしょう(改善アプローチのほとんどが“同業他社との比較による自社フローの脆弱性や財務指標の脆弱性”の判定から派生するためAIで十分)。

●どのようなコンサルでも財務諸表のどの部分に効果が出るのかの確認は必要。数字を具体的に示せないコンサルは絶対にやってはいけません。

つまり、潜在需要の発掘の部分(上記でいう、健康診断⇒精密検査の部分まで、言い換えると決算書の作成⇒内部統制・財務分析)に関しては、我々会計コンサルはビジネスとしない方が良いと私は考えてしまうのです。ただし、この潜在需要の発掘をしなければ、改善・運用には流せない(ストーリーがない)のでここに矛盾が起こります。

やはりそう考えると自分の中の結論は一つで、「コンサル手法の無償開示が必要(オープンソース化)」となるのです。無償開示をし、潜在需要の発掘をクライアントにて自社内で行ってもらうのです。そして自社では対応できない(リソースが足りない)会社の「健康診断⇒精密検査」の部分を代行することになります。すべての会社が潜在需要の発掘を自社で行ってくれると、顕在化した需要に対するコンテンツ(もちろん会計・改善コンサルもコンテンツの1つですが、システムのはめ込みの方が容易にイメージできます)の提供だけを考えればよくなるために、一つの形としては成り立ちます。ですが・・・私の中では「これって会計コンサルやっぱ必要ないな(システム入れた方が100倍効果がある)」となるわけです。なんだか堂々巡りですね。

という堂々巡りを長年行ってきた結果、今も税理士として活動しています。今は専門家によるコンサルとシステムの導入、AIの活用を上手く使い分けるフェーズなのだろうなぁと漠然と思っています。少しずつシステム・AIの方に自身を動かしていかなければなりませんし、その部分の専門家にならないと税理士としての仕事はなくなると思っています。※スピード感やITネイティブの存在など種々の条件はクライアント毎に異なるため、その見極めの部分が今現在は重要だなと。

●社内DX化をお悩みの方は、貴社税理士にまずはご相談ください。インボイス制度及び電子帳簿保存法が開始されるこのタイミングで移行できなければ、取り残される可能性がかなり高くなります。

私は、税理士という職業はクライアントとの対話(顧問業務こそがコンサルの最終地点であり、決して何かあったときの保険業務ではない。クライアントに変わり私が税理士として常に問題意識を抱え、クライアントの社長に議題を提供していくもの)だと思っています。税務の専門家であることは前提条件であり、多くの税理士はこの部分のマインドセットができていません。税理士の過去の栄光はもはやないのです。