駐在員の税務~海外と日本どちらで税金を支払えばよいの?~

皆さんこんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今回のテーマは、「タイと日本のどちらで税金を支払うか」についてです。タイでビジネスを行っているにも関わらず、日本の健康保険や年金を残したいと日本でも給与を受け取っていませんか。例えば日本の銀行口座にも貯金をしたいので、日本での受取分を少し増やしていませんか。タイで働いているのに日本で給与を受け取るというのは実は税務的にはとても不思議なことなんです。

 

では質問です。

 

Q:タイに出向している日本人従業員の日本口座に日本親会社が給与を支払いました。この給与に関しては、非居住者に対する給与の支払いとして20.42%の源泉徴収を行うでしょうか。

 

A:行いません。タイに出向しているということは勤務場所がタイであり、タイの国内源泉所得となるため日本において税金は発生しません。

 

これが国際税務の基本となります。日本の国内源泉所得(日本で発生した所得の意)は日本において税金を支払い、タイの国内源泉所得(タイで発生した所得の意)はタイにおいて税金を支払うのです。日本で働いて日本で受取った給与に対して、タイから税金支払えと言われたら「は?なんで?」となると思いますが、働いた国で給与をもらい、税金を支払うのが税務の世界では前提です。

 

ただ、この部分を非居住者に対する支払は20.42%の源泉徴収を行うものと認識している方も多く結構間違えてしまう部分でもあるのです(注意!!)。

 

この部分について、冒頭では「タイで働いているのに日本で給与を受け取るというのは実は税務的にはとてもふしぎなことなんです」と伝えていますが、次はこれを考えてみましょう。

 

Q:タイ法人と日本法人は別々の法人であり、本来タイ法人が負担すべきものを日本法人が負担して問題にならないのでしょうか。

※タイに出向しているので、日本法人に対して勤務(役務提供)を行ているわけではありません。

 

A:一定の基準を満たせば問題になりません。※ただし、本来は寄附金課税の対象になりえる(タイの給与を日本で肩代わり)のでしっかりと基準の確認が必要です。

 

一定の基準とは「較差補填金」です。国税庁のタックスアンサーNo.5241に詳しくのっているので見てみましょう!

 

【較差補填金】

No.5241 出向者に対する給与の較差補てん金の取扱い(法人税法基本通達9-2-47)

出向元の法人が出向先の法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与は、出向期間中であっても、出向者と出向元の法人との雇用契約が依然として維持されていることから、出向元の法人の損金の額に算入されます。

また、次のような場合も、給与較差補てん金として取り扱われます。

1 出向先の法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため、出向元の法人がその出向者に賞与を支給する場合

2 出向先の法人が海外にあるため、出向元の法人が留守宅手当を支給する場合

この給与較差補てん金は、出向元の法人が出向者に直接支給しても、出向先の法人を通じて支給しても同様に取り扱われます。

 

<ポイント>

①給与条件の較差を補填するために日本で給与を支払った

②留守宅手当として日本で給与を支払った

 

簡単にいうとポイントはこの2つ。実務的には、このどちらかで理論的構築を行っていく必要があります(その場合が大半)。

これを更に読み解いていくと…

 

<読み解く>

①現地の同ランクの従業員と比較して(日本人であるだけで)めちゃくちゃ給与をもらっていたら、現地従業員は納得できない。そのため、そのような較差を補填するために現地は同程度の給与として、差額を日本で較差補填金として支払った。

②帰国後には日本の生活が待っているので、日本の生活(年金、社会保険、住宅ローン、両親への仕送りなど)を維持するため留守宅手当を支払った。

 

この文章から分かるように、較差補填金は「いくらまで日本で給与を払ってOK」と定量的に決まっているものではありません。そのためしっかりと理論的構築を行って、ストーリーをもって税務調査にあたる必要がある項目です。解釈の範囲のものなので、考え方を伝え間違うと大変なことにもなりかねません。

 

例えば、日本側で400万円/年程度の給与を支払っていた場合に、5年遡られたら2,000万円となり、海外との給与較差を補填するために支払っていると主張したのに、実際には給与較差がない場合などは「国外関連者に対する寄附金」として2,000万円の全額が損金不算入となる可能性すらあります。そうすると500万円以上の追徴税額となる可能性。追徴税額も言い方ひとつです。

 

特に、近年は、日本が相対的に安くなってきており、今まで給与較差で主張していた会社も給与較差がなくなってしまっている可能性もあります。再度、ご確認をお願いします。