MS法人業務~税務調査において指摘を受けないために~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。

 

前回から始まった「MS法人設立への道シリーズ」は、節税のために医療法人を設立するのはリスクが高いと感じたドクターの皆様を対象として、MS法人の設立についての詳細に迫っています。

 

第2回目の今回は『税務調査において指摘を受けるMS法人業務』についてです。

 

一般的にMS法人で行うことができる業務は次のようなものがあります。

 

【MS法人による所得分散のスキーム例】

①不動産(駐車場)の賃貸・管理

②医療材料/機器の販売や賃貸

③医療事務(保険請求事務含む)/経理事務等の管理部門の受託

④医療DX化事務の受託

⑤予約サイト、ウェブサイト、ランディングページ作成と関連業務の受託

⑥介護サービスの受託

⑦院内売店、院内給食や院内清掃の受託

⑧人材派遣サービス

⑨経営コンサルティング

 

クリニックや医療法人はMS法人を経由することで、多額の個人収益を親族間で分散できる可能性が出てきます。分散することによってもちろん各々の法人税・所得税を節税することができます。

 

一度、形ができた場合には、節税効果が抜群なMS法人の設立ですが、近年は税務調査等でかなり厳しく取り締まられている印象があります。多くの場合に、これらの可能と言われている業務を行ったとしても“節税目的”以外の説明がつかないのです。

 

税務調査において反証するためのポイントは、「ビジネスとして行っていること」、「第三者との取引を行っていること」、この2点です。もっと言ってしまえば“恣意的な価格”によって取引を行っているか否かです。

 

クリニック及び医療法人は、親族が経営するMS法人を経由することによって、通常のサプライヤーに対する支出よりも多額になっていることが多いですが、これにビジネス的な理由はありますでしょうか(利益が出ない方をあえて利用することにビジネス的な理由があるかということ)?

 

節税目的でMS法人を設立すると、その取引価格は「必ず恣意的な価格」となります。

 

親族間の取引なので、自分で価格を調整することができるためです。これが税務調査において許されない。税務調査担当官は、恣意的な価格は全て認めないとなるのです(MS法人を持っているだけで、これを確実に狙ってきます)。

 

親族間の取引価格では税務調査において認められないため、実ビジネスにおいては、価格のベンチマークとなる存在を作る必要があります。世の中には価格設定のために外部サプライヤーから「相見積もり」をとって、MS法人の取引価格を設定しなさいという指南書(参考書)が出回っています。

 

これが罠です。親族が経営するMS法人との取引価格を外部サプライヤーとの取引価格まで落とすと、ボリュームディスカウントが効かないため利益を計上できず、MS法人を設立する意義がそもそもなくなるという場合が殆どです。そのため、MS法人は、今や節税もできない「過去の産物」と言われてしまうのです。

 

個人的には、「見積価格という曖昧な価格を参照すること」という税務署の指摘はお門違いなのですが、世の中にはこれが蔓延っています。まさに商慣行というやつですね。これに税務的な客観性はありません(ないよりはましというくらい)。

 

むしろ国際的なビジネスを取りまとめるOECD(経済協力開発機構)のガイドラインなどには(利益移転を防止するための)ベンチマークとなる価格に「見積価格を利用してはならない」という文章が追加されるほど見積価格は客観性の低い価格とされているのです。それなのに日本の税務調査では、まだこれが客観性の高い価格と思っています。

※OECDが規制しているのは、厳密には「親子会社間の取引」についてですが、恣意性の介入する価格設定という部分の本質は同じです。

 

つまり、これよりも理論的に客観性の高い価格算定根拠を設定することが重要なのです。見積価格は客観性がなく、理論的には“弱い価格”ということが前提です。

 

【客観性の高い価格】

①市場価格(外部CUP)

②外部第三者同士の取引価格(外部CUP)

③自社と第三者との取引価格(内部CUP)

※CUP=Comparable Uncontrolled Price

 

これらの中から価格の根拠をつくって、スキーム構築していくのです。ポイントは③の「内部CUP」、親族同士の取引は恣意性の高い価格(客観性の低い価格)とされますが、外部第三者との取引価格は市場に出回っている実際の取引価格であり、客観性の高い価格となるのです。相見積もりを取っただけの“見積価格”よりは確実に。見積価格は内部CUPを擬制しただけのものであり、国際的にも適正価格と認められるものではありません。

 

つまり、MS法人が行う業務がいけないのではなく、その取引価格がいけないのです。

 

それなのに、MS法人についての質問では、必ず「どのような業務をMS法人で行うのであれば、税務調査で問題になりませんか?」と。まさに目から鱗ですね!

 

さて、盛り上がってきましたが、今日はここまで。次回はどのようにスキーム構築するかを考察してみましょう。次回も参考になることを記載しますので、是非お楽しみに!

 

※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。

 

【MS法人設立への道 第2回】 ~税務調査において指摘を受けるMS法人業務~