皆さんこんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今日のコラムは私の専門とする移転価格についてです。年間で40本ほどアセアン各国の移転価格文書を作成している中でみえる論点を分かりやすくお伝えいたします。
【移転価格税制とは】
親会社が海外子会社の意思命令系統を握っていると(株を50%以上もっていると)、国際間で自由に利益を付け替えることができてしまいます(親会社から子会社に「このボールペン1万円で買いなさい!」という具合に)。
それを規制する税制が移転価格税制であり、「自分たちの価格は適正です」と国に対して証明するものが移転価格文書(ドキュメント)です。
【価格の証明】
数多の方法で価格が適正であることを証明していくので、ボリュームが多くなり全てをここでお伝えすることはできません。そのため今日は本質的な部分だけお伝えできればと思います。
<適正価格のポイント>
ベンチマークを取って外部の第三者価格との比較を行う
移転価格文書の作成にあたり、子会社への販売価格は、外部価格と比較して適正であると証明していきます。普通のボールペンは1万円で販売されていないですよね?
そのため外部のボールペンが100円であれば、子会社への価格も「100円で販売しているよ」と証明していくのです。
【税務リスク】
ただし、既に1万円で販売を行った後であれば、それを今後100円に変えたところで、1万円で販売してしまったという履歴(国によって違いますが5~10年は遡及されます)は残り、税務リスクが発生してしまうのです。つまり重要なことは、1万円で販売しない体制が整っているか。
【外部価格】
ボールペンのような汎用品であればおおよその市場価格が分かりますが、貴社が作っている製品や販売している商品に比較できる外部価格なんて(価格は極秘情報のため簡単に調査できる外部価格なんて)、基本的にはありません。専門性の高い部品やユニークな商品、外部から適正価格を抽出することが難しいことも多々あります。
【移転価格の考え方】
1つ1つの商品の価格を個別に比較する方法と、商品群をまとめて比較する方法、どちらの客観性が高いでしょうか。
そうです。1つ1つの商品価格を個別に比較する方の客観性が高いのです。移転価格はアカデミックな税制であるために理論的な客観性をあげていくことが重要です。
多くの場合、会社側は自分たちの商品はユニークなものであり、個別に確認することができない(比較できる外部価格がない)、また取引は有機的に絡み合っているためまとめて検証した方が合理的として、まとめられた利益率(例えば営業利益など)で外部と比較しますが、税務当局は個別に確認できないかと常に目を光らせてきます。
1つ1つの商品ごとに、価格や利益率が適正かの確認をできた方が、もちろん客観性が高く、税務調査において指摘ができるのです。
【税務当局が個別に確認する方法】
このように税務当局は個別に確認を行ってくるのですが、外部価格で比較可能な価格を探すことは容易ではありません。明確な市場価格がある製商品(汎用品を除く)を取り扱う会社なんてほとんどありません。
外部から内部へ
そのため、外部価格で比較可能な価格を探すことを税務当局は行わないことも多いです。探すのはかなり大変なので。多くの場合には外部で探すことは早々に諦めて、内部の価格を探されることになります。
つまり、クライアントに販売している価格と、子会社に販売している価格の金額が整合しているのか。子会社だからといって他のクライアントに販売している価格よりも高く(または低く)販売していないか。
このように、税務調査での指摘が非常に多くなっています。移転価格をすべて理解するのは無理なのでまずはここだけでも抑えていただければ幸いです。
赤字取引
次に個別に確認されるものは赤字の取引です。クライアントとの取引でも、原材料の価格転嫁がなかなかできない等の理由で赤字の販売になることもあるかと思います。また、バーター取引などで、全体として利益が出るような設計(一部商品については赤字又は低利益率に設計)にしていることもあるかと思います。
クライアントとの取引価格と同様の価格設計をして、全体で利益が出るように調整していたとしても、子会社との赤字取引は認められません。基本的に海外の税務調査(移転価格の調査)では「赤字」に敏感に反応します。
赤字取引、赤字事業年度のロイヤルティ・役務提供、差異調整、外部要因や内部要因、赤字から黒字になるタイミングにおける繰越欠損金、これらは狙われています。
これらの項目も税務調査での指摘が非常に多くなっています。上記の内部価格の確認ができましたら、赤字に関連する項目も細かくチェックしてもらえればと思います。
【まとめ】
移転価格の論点は多岐にわたり、その論点をすべて網羅することは基本的にできません。それに、これらの多くの論点が〇(白)か×(黒)かという話ではなく、灰色の客観性を戦わせるような性質のものなので、相手(海外の税務当局)がどのような武器を使っているかをまずは考えることが重要なのです。
「敵を知れば百戦あやうからず」ですね。
今回のコラムでは、海外の移転価格調査におけるポイントを記載しました。海外では特に移転価格での調査・指摘が多くなってきておりますので、今一度、上記の指摘の多い事例だけでもご確認を頂ければ幸いです。