皆様こんにちは、JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今回のコラムは、「コロナ禍の一時帰国が税務調査で問題に!~最新税務調査トピック~」です。2020年代はコロナから始まり海外赴任者には過酷な日々が続きましたが、ようやく日常が戻ってきたように感じます。
すると始まるのが税務調査。最近の税務調査では、このコロナ禍の緊急一時帰国に関して指摘を受ける企業が多発しています。指摘を受ける前に考え方をまとめて、どのように主張していくかを決定しましょう!
今回のコラムが皆様の将来の税務調査において役に立つことを切に願います。
「国内源泉所得」と「国外源泉所得」の違いを皆様はご存知でしょうか。基本的な国際税務の知識がある方を今回のコラムの対象としていますので、不明な方はまずは下記からご確認ください。
国内源泉所得:所得税法161条
国外源泉所得:所得税法95条4項
個別に列挙されていますが、「国内源泉所得」以外の所得が「国外源泉所得」、基本的にはこの切り分けで良いです。
では、質問です。
Q:海外赴任者の給与は「国内源泉所得」か「国外源泉所得」か?
これは簡単ですね。答えは、「国外源泉所得」です。
続いて、質問です。
Q:海外赴任者が日本に一時帰国して、日本本社において、海外子会社の業務を行いました。この日本本社で行った海外子会社業務に係る給与は「国内源泉所得」か「国外源泉所得」か?
これが今日覚えてもらいたい一番の項目です。
答えは、、、、「国内源泉所得」です。
この部分がなかなか分からないものです。なので、もう一度上記の「国内源泉所得」の規定に戻ってみましょう。
この規定の、12号㋑に「給料のうち、国内において行う勤務に起因するもの」は、「国内源泉所得」に該当するとあります。
これがとてもネックになるのです(場所的拘束のみにて国内源泉所得に該当すると考えられる。対内国法人or対外国法人への業務かは問わない)。
全ての一時帰国において、日本本社に出勤し、海外子会社の業務を行う場合には、日本の「国内源泉所得」となります。非居住者である駐在員に対して国内源泉所得に係る給与を支払う場合において、本来であれば20.42%の「非居住者への支払いに対する源泉徴収税率」によって源泉徴収することが原則となります。
ただ、一時帰国の日本勤務分の給与に関する源泉徴収は行いませんよね?
これは、租税条約15条の給与規定において、「短期滞在者免税」と言われる規定があるためです。日本への滞在が183日以内で、給与の支払・負担が海外子会社の場合には、たとえ「国内源泉所得」である上記給与(給料のうち、国内における勤務に起因するもの)であっても、「短期滞在者免税」の規定によって(日本においては)免税扱いとなります。
知らないあいだに皆様も短期滞在者免税の恩恵に与っているかもしれません。
さて、ここからが応用であり、税務調査の指摘ポイント。
コロナ禍での一時帰国は、この183日を超える場合が往々にして起こりました。近年の税務調査では、これが狙われているのです。
分類を下記に貼ります。
※黄色ハイライトで期間分けています。
問題は(コロナ禍で日本への滞在期間が)、183日超又は1年以上となってしまった場合です。会社が大事を取って一時帰国をさせた結果、個人所得税が未納付になっているのです。繰り返しますが、法人税ではなく、個人所得税の未納付(確定申告未済)となってしまうのです。源泉徴収は会社の義務ですが、個人確定申告は個人の義務です。
では、この部分において、会社が当該申告を(納税管理人となり)代理で行うとしましょう。個人に負担させるわけにはいかないので会社が差額納税分を負担することが一般的です。
すると、当該差額納税分は当該個人(社員)への給与と認定されてしまい更に海外子会社の所在する国での個人所得税の納付となるのです。踏んだり蹴ったり。この部分は連鎖するので、全体像で検討する必要があります。
ここは、基本的に国内源泉所得に該当するか、国外源泉所得に該当するかの話なので、地理的に日本国内で勤務している以上、国外源泉所得で主張するということは難しいものと筆者は認識しています。
※コロナ禍のやむを得ない対応として、会社における考え方を明示した場合には、一部国内源泉所得であっても「指導に留める」と伝えてもらっている事例も確認しています(正しくは、国内源泉所得なのであくまでも調査担当官の温情的な処置との認識)。
当該個人のステータス(役員・従業員)によっても変わるところであるので、個別に確認することが必要です。いずれにしても事前準備をするようにしてください。
いかがでしたでしょうか。最近の税務調査のホットな論点ですが、おそらく困る会社も多い事例かと思います。不明点や疑問点があれば、お気軽にお問い合わせください。
【筆者紹介】
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる