皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。
今回から海外子会社のガバナンスの話になります。
ガバナンス(Governance)は直訳すると「統治」となります。コーポレートガバナンスは伝統的に「企業統治」と訳されてきましたが、ずいぶん言葉として定着しました。では、海外子会社のガバナンスの目的とはなんでしょうか。ルールやシステムで子会社を縛って業務フローレベルまで徹頭徹尾本社のやり方を浸透させて子会社の意思決定や業務を支配することでしょうか。
答えはもちろん「NO」です。いうまでもなく、その対極、いっさい放任して任せるというのも違います。
総論としての結論を簡単に言ってしまえば、適切なバランスを見極めて関与するところは関与して、任せるところは任せる。その結果として、グループの価値を最大化し、様々なリスクをコントロールする。これが海外子会社ガバナンスの目的となります。
場合によって異なりますが、海外子会社に全てを任せることを出発点として、任せられない部分を線引きして本社関与部分とその関与のレベルを定めていく、いわば「逆算方式」による管理を考えていくことが現実的と思われます。
では、少し具体的な話に移りたいと思います。
どうやってその「適切なバランス」を確保していくのかという問題です。
ここでは、「企業理念の共有」をその出発点として論じたいと思います。
下図のピラミッドは企業の構成要素を図式化したものです。
ピラミッドの頂点に企業理念があり、経営戦略、組織と経営者がいて、一番下では従業員が従うべき業務プロセスの階層まで重なっています。
国家の法体系にいうところの、一番の上位概念として憲法があり、国会が定める法律があり、行政官庁の発する政令や省令といった厳然たる階層構造になっているのと同じです。憲法に違反する法律が制定できないのと同様、理念に反する戦略はあってはならないし、戦略に反する経営陣の判断もあってはなりません。
「企業理念」の共有は、双方向のコミュニケーションで理念とあるべき将来の戦略を共有する。そしてお互いの信頼を醸成していく営みです。
もっとも、理念の共有には長い時間が必要です。このコラムを読みながらも「理念教育が大事というのはわかっているけど…」という本音が聞こえてくるようです。しかし、中長期で考えると、グループのトップが継続して説いていくことは間違いなく有益ですし、必要なことです。
それは、理念や戦略は重要な意思決定を行う際のよりどころとなるためです。理念や戦略に反する重要な意思決定を親会社が関与しない形で勝手にされると、利益相反が起きたり非効率的な判断がなされたり、事の重大性によってはグループ全体の価値を毀損し、損害を与える可能性があります。
実際には理念の浸透をじっと待っているわけにはいかないので、従業員側、つまり現場でどういう業務プロセスが踏まれているかの現状把握をすることも同時に行わなくてはなりません。これはボトムアップの指向性で、現場と実際の業務フローがどうなっているのかを把握して、「ここは任せられそうだな、ここは変えてもらわないといけないな」という判断を行っていきます。
変更を求めた際の最初の反応は、おそらく、いろいろな理由をつけて、「変えられない」というものでしょう。
本当に法令の違いなどの理由により変えられないのか、ただ単に慣れた方法を変えたくないのか、(はたまた不正の温床を透明化されるのを恐れているのか)知る必要があります。必ずしも親会社側の要求に正義があるわけではない(本当に現地法令のコンプライアンス上まずいことを言っているかもしれないし、商習慣上よくないことを言っているかもしれない)ので、押し付けるだけでなく話を聞くということが大切になってきます。
コミュニケーションは現地の知見の吸い上げというポジティブなスタンスで臨みましょう。
まとめると、実際の海外子会社管理のガバナンスの序盤では、トップダウンによる「理念教育」とボトムアップによる「現状の把握」は同時進行で走らせることになります。特にトップダウンの指向性によるものは、一般的にPMI(Post-Merger Integration)と呼ばれる、M&Aに伴い必然的に発生する業務です。
※ボトムアップで現状確認⇒トップダウンで統治
どちらか一方の指向性が欠けてもガバナンスはうまく機能しません。トップダウンもボトムアップも、お互いが相補的、相乗的に機能するということを意識してください。そして、両方の指向性は、粘り強いコミュニケーションに支えられることになります。
次回のコラムは、有効なガバナンスを機能させるために必要な手段(あるいは構成要素)としての、リスクマネジメントと内部統制についての話に続きますので、併せてご覧ください。どうぞお楽しみに!
※海外子会社管理業務は、日本とタイと協力して行っており、当該コラムについても弊社タイ法人のWebサイトにもアップしております。
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる