タイ駐在員事務所の会計業務~日本本社の合算財務諸表作成~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の原島です。

 

先日、弊社のタイ法人J Glocal Accounting Co.,Ltd.において、「タイ駐在員事務所の設立」を題材としてコラムを書きました。この駐在員事務所は、タイ側でビジネス(営業活動)をするわけではないため、日本本社との関わりあいが非常に深く、タイ国のみでは会計業務が完結しません。

 

そのため、今回のコラムでは、日本本社へのレポーティング業務の流れを含めてタイ駐在員事務所の会計業務を網羅的に解説します。

 

駐在員事務所の設立をご検討されている方や、設立後のレポーティング業務に効率性を感じられていない方などは、先日の設立関連のコラムから、今回のコラムまでの一巡をご確認いただければ幸いです。

 

1.タイ駐在員事務所の特徴

タイ駐在員事務所の業務として認められるもの(適格業務/下記5項目に限定)

・本社向けの製商品、またはサービスの供給元の発掘

・本社がタイ国内の第三者から購入する製商品の品質管理及び数量管理

・本社がタイ国内の代理店、または消費者に販売した製商品に関する説明

・本社の新製商品、または新サービスに関する説明

・本社に対するタイ国内における業界動向の報告

 

駐在員事務所の一般的特性

・営業活動による収入がない

・本社製商品、またはサービスに係るPR活動(受発注はNG)

・すべての経費支出は本社からの送金による

・法人税等の課税対象にならない※ただし本社からの送金額(銀行にプールされた額)に係る銀行利息に関してのみ課税対象となる

 

駐在員事務の禁止業務 ※DBD(タイ商務省)において12項目の禁止業務を限定列挙

1.本社等※に代わり製商品の発注および支払いは行えない

2.本社等への製商品の発送は行えない

3.第三者のための検品業務は行えない(本社等のための検品業務はOK)

4.据付およびメンテナンスに係るサービスは行えない

5.本社等が供給する以外の製商品またはサービスに関する情報提供は行えない

6.本社等に代わり製商品またはサービスの受注は行えない

7.本社等に代わり製商品の仕入販売に係る調整(コーディネーション)は行えない

8.過去にタイで販売された製商品またはサービスに関する情報提供は行えない

9.タイの顧客と本社等の間に入る仲介役・代理人等のエージェント業務は行えない

10.本社等に代わり第三者等と計画の立案や調整は行えない

11.本社等に代わりいかなる契約も結ぶことができない

12.本社等以外の第三者に対する情報提供は行えない

※本社等:本社および関連会社をいう

 

近年は各国の税務当局においてPE認定課税の指摘が非常に多くなっています。駐在員事務所は、支店と違い営業活動が認められていません(そのため「法人税の対象とならない」)。そのため営業活動を行っているとして、「支店PE」であるとの指摘を受けないように注意が必要です。

 

2.合算FS(財務諸表)の作成

<タイ駐在員事務所の具体的な会計業務>

タイ駐在員事務所における日々のルーチン会計業務は特段論点がありません。行っている業務が駐在員事務所業務として認められるか否かが重要であり、いったん認められてしまえば記帳自体は難しくないため、ルールに則って粛々と行えば問題ないと思います。具体的には次のような業務をルーチンで行います。

 

 

<合算財務諸表の作成>

ルーチンの会計業務は難しくないのですが、日本本社とタイ駐在員事務所は、同一人格(日本本社)のため、それぞれのFSを合算した「合算FS」日本本社サイドにて作成する必要があります。これが結構難しく、苦戦する会社が多いのです。

 

 

ルール化が重要なこの「合算FS」の作成。日本本社のFSに、タイ駐在員事務所のFSを合算させる場合の主な論点を列挙してみます。

 

合算FSを作成するための主な論点

・日本本社の「支店勘定」とタイ駐在員事務所の「本店勘定」を一致させる

・タイ駐在員事務所の期末BS残高を決算日レートで換算する

・タイの会計税務処理を日本の会計税務処理に変えるための仕訳(変換仕訳)を計上する

・(変換後の)タイ駐在員事務所の決算データを合算仕訳として日本本社に取り込む

 

論点を見てもなかなか実務的なイメージができないものと思いますので、今回は更に踏み込んで合算FSを作成するための課題と解決策までを確認します。

 

3. 合算FS作成のための課題とその解決策

合算FSを作成するためには「日本本社側の処理」が課題となります。タイ側にある駐在員事務所では、日々のルーチン業務で数字を作り、(タイ側の法人税課税はないため)その数字を日本側に報告するだけでよいのです。

 

ただし、日本本社では、数字を受け取ってそれでよしとはなりません。なぜなら、日本本社側ではタイ側からあがってきた数字を合算してFSを作成し、それを基に法人税等の申告業務を行わなければならないので。タイ国のルールに則って作成されたタイ駐在員事務所のFSを組み替えて、日本国のルールに則った日本本社のFSにする、ここに課題が多く存在し解決が難しいのです。

 

日本本社において合算FSを作成するための具体的な課題は、下記の6項目です。

 

合算FS(日本側の処理)の課題

①タイ駐在員事務所の取引をどのように日本本社へ取り込めばいいか?

②タイバーツから日本円への為替換算にはどのレートを使えばいいか?

③日本とタイの勘定科目の差異をどのように調整すればいいか?

④タイ駐在員事務所の仕訳は英語またはタイ語で記帳されているが、内容把握はどのように行えばいいか?

⑤タイと日本の会計ルールの違いはどのように調整すればいいか?

⑥タイと日本の税法の違いはどのように調整すればいいか?

 

 

<各種課題に対する解決策>

①タイ駐在員事務所の取引をどのように日本本社へ取り込めばいいか?

・本支店会計を適用する

・日本本社は「支店勘定」を用いてタイ駐在員事務所への送金額だけを期中は記帳(円建て仕訳、必ずタイバーツ金額も摘要欄に記載)、期末にタイ駐在員事務所のBSとPLを一括で取り込む

 

②タイバーツから日本円への為替換算にはどのレートを使えばいいか?

・原則TTM

・ただし継続適用により会社が決めたレートによる換算も可能(会社にあったレートをご提案)

 

③日本とタイの勘定科目の差異をどのように調整すればいいか?

・勘定科目組替表を作成して対応させる

 

④英語・タイ語での記帳内容の把握はどのように行えばいいか?

・仕訳の摘要欄が英語またはタイ語だとしても、JGAなら会計帳簿を作成しているため取引内容の説明が可能

 

⑤タイと日本の会計ルールの違いはどのように調整すればいいか?

・リース取引の会計基準の相違

・固定資産への計上基準の相違

・引当金の計上基準の相違 etc

これらの項目についても、JGAでは(日本本社のため)日本会計基準による財務諸表を作成可能

 

⑥タイと日本の税法の違いはどのように調整すればいいか?

・損金不算入経費の取り扱い

・交際費の損金算入限度額

・給与所得の課税範囲 etc

これらの項目についても、JGAでは(日本本社のため)日本税務基準による税務調整が可能

 

4. 月次業務フローと年次業務フローの確認

最後に、責任の所在を明確にするために、このサービスを弊社ご依頼いただいた場合の月次業務フローと年次業務フローの外観を確認してみましょう!

JGAグループでは、日本(JGA税理士法人)とタイ(J Glocal Accounting Co.,Ltd.)の両面からクライアントをサポートしているため、これらの業務を一気通貫で行うことができるのです。

 

<月次業務フロー>

 

<年次業務フロー>

 

いかがでしたでしょうか。駐在員事務所の設立をご検討されている方は、以前のコラム(駐在員事務所設立まわりの内容)から、今回のコラム(駐在員事務所の会計税務の内容)までの一巡を、是非ご確認ください。また、不明点があればJGA税理士法人(日本法人)又はJ Glocal Accounting Co.,Ltd.(タイ法人)まで、お気軽お問い合わせを頂ければ幸いです。

 

【筆者紹介】

JGA税理士法人

代表社員/税理士 原島 茂雄

「1人でも多くのお客様に喜んでいただけるサービスを提供すること」を創業理念とし、2006年にはらしま会計事務所を設立。日本国内において、業務範囲に制限を設けずにクライアントの立場にたった細やかな対応により、個人事業主から上場企業まで幅広い企業に対して会計・税務・財務のコンサルティングを行っている。2010年頃からの変革期においては、相次ぐクライアントの海外進出により、今後税理士は世界で活躍できる可能性があると一念発起し、2013年にJ Glocal Accounting Co.,Ltd.を設立。国際ビジネスは日本と現地国の両面からのサポートが必須と考え、海外子会社を含めた日系企業グループの全体最適を達成するため日本とタイの両面からのサポートを行う。2023年7月からを第三次創業期と位置付けて、「JGA税理士法人」へ組織変更を行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、IPOサポートなど多岐にわたる。