皆様こんにちは。JGA税理士法人の片瀬です。
年の瀬が近づくと、毎年必ず発生する業務のひとつに「年末調整」があります。
源泉徴収された所得税と、本来負担すべき税額との過不足を精算する手続きですが、従業員や会社にとって、「準備不足で機会損失が発生した」というケースが決して少なくありません。
とりわけ令和7年分の年末調整においては、基礎控除・給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設など、改正が複数入っていますので注意が必要です。
これを踏まえ、10月以降に取り組んでおくべき社内準備を事前に把握しておくことで、無駄なくスムーズに業務を進め、従業員にも配慮できる体制づくりが可能です。
今回のコラムでは、実務担当者が押さえておきたいポイントを時系列・段階別に整理してご紹介します。よろしくお願いいたします。
【全体の流れとスケジュール感:いつから何を始めるか】
まず、年末調整の典型的な流れと各段階の期限を押さえておきましょう。
実務的には、社内期限を「11月上旬まで」に設定し、余裕を持って書類回収・記載チェックを終えるようなケースが多いように感じます。
なお、国税庁が公開している「令和7年分年末調整のしかた」には、改正点や各種書式が詳細に明記されていますので参考にしてみてください。
早めにこの「年末調整のしかた」を確認して、社内準備しておくことが年末調整業務において最も重要です。
【10月~11月:改正点の整理と社内準備】
①改正内容の把握と社内準備
令和7年分の主な改正点は次のとおりです。
基礎控除の見直し:従来48万円だった基礎控除枠が所得階層別に見直され、最大95万円まで拡大されました(ただし所得水準によって段階設計あり)。
給与所得控除の最低保障額引上げ:給与所得控除の最低保証額が55万円から65万円に引き上げられました。
特定親族特別控除の創設:所得者が特定親族を有する場合には、その所得者の総所得金額等から、その特定親族1人につき、その特定親族の合計所得金額に応じて最高63万円を控除する特定親族特別控除が創設されました。なお、年末調整上、この控除を受けるためには「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を給与支払者に提出することが必要です。
扶養親族等の所得要件の引上げ:基礎控除の見直しに伴い、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件が改正されました。
これら改正は、令和7年度税制改正に基づき、原則令和7年12月1日に施行され、令和7年以降の所得税に適用されます。
※12月の年末調整は改正後の規定が適用されます(期中の源泉徴収は改正前の規定のためギャップに注意)。
②社内スケジュール
改正内容を踏まえると、令和7年の年末調整においては、次のような社内準備が必要となります。
㋐書類回収→(改正内容を含め)確認※→不備修正→最終処理というフローを逆算して社内提出期限を決定
㋑担当者ごとの役割分担(人事・総務・経理それぞれ)
㋒必要であれば、マニュアル整備、従業員説明用資料の作成
㋓電子化・システム対応の検討(年末調整システム、給与ソフトの確認など)
※改正内容を含めた確認事項※
・従業員に、改正によって、新たに扶養控除の対象となった親族等がいないかの確認を行い、いる場合には「扶養控除等(異動)申告書」の提出を受ける
・新設された特定親族特別控除の適用を受ける従業員から「給与所得者の特定親族等特別控除申告書」の提出を受ける
・改正後の基礎控除・給与所得控除を踏襲する
③従業員向け事前通知・説明
改正によって、従業員側においても、改正内容や申告書類の記入方法に戸惑う可能性がありますので注意してください。
・改正内容と、新設控除制度(特定親族特別控除等)の説明
・提出書類・控除証明書(保険料、地震保険、小規模企業共済掛金など)の保管案内
・提出期限の予告、早めの記入・提出を促す案内
・よくある記入ミスや注意点の例示
従業員が控除証明書等を紛失・提出漏れすると、年末調整の対象となる控除が適用できず、後日個人が確定申告をしなければならない事態にもなり得ますので注意してください。
【11月~12月:書類回収・確認・計算の段階】
④各種申告書・控除証明書の回収とチェック
従業員から回収すべき主な書類は以下の通りです。
・給与所得者の基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の兼用申告書(兼 特定親族特別控除申告書を含む様式)
・保険料控除証明書(生命保険・地震保険等)
・小規模企業共済掛金証明書
・住宅ローン控除(年末調整対応分)関連書類
・その他(寄附金控除、医療費控除等、必要な場合)
回収後、記載漏れ・不整合・添付漏れがないかを丁寧にチェックし、必要に応じて修正を依頼できるよう準備しておきます。
⑤税額計算と過不足調整
控除情報をもとに、年収・各種控除後の課税所得、所得税額を算定し、源泉徴収された税額との過不足を精算します。
還付すべき場合は12月給与、徴収すべき場合は12月または翌年1月の給与内で対応するのが一般的です。
なお、12月分給与を翌年1月に支払う会社の場合には、12月分給与が年末調整の対象になるかどうか注意が必要です。
⑥源泉徴収票交付・法定調書作成
年末調整後、従業員に対して源泉徴収票を交付する必要があります。また、給与支払報告書・法定調書合計表など、税務署提出用の集計作業もこの時期に進めます。
なお、法定調書等は翌年1月31日が提出期限です。
【1月:最終確認と申告対応】
・法定調書等を所轄税務署へ提出
・万一、従業員から年末調整漏れやミスの指摘があれば、修正対応
・来年度の制度改正や改善点を振り返り、社内マニュアルの見直し
<令和7年の年末調整の留意点>
今年の留意点は「改正内容の見落とし」につきます。しっかり国税庁が公開している「令和7年分年末調整のしかた」を確認してください。
おわりに
年末調整業務は、従業員の税務メリットを確保しながら、会社側も適正な処理を行うという両面配慮が必要な業務です。
特に改正の年には、「事前準備」が、業務効率と従業員の満足度を大きく左右します。
本コラムがみなさまの年末調整業務にかかる社内準備を進める際のヒントになれば幸いです(ぜひ準備を10月から始めてください!)。
また、ご希望であれば、年末調整対応も弊社で受けること可能ですので、お気軽にお申し付けください。
【筆者紹介】
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはアメリカに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にアメリカ移転価格税制協力会の発起人としてアメリカ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる