2026年労働基準法改正~約40年ぶりの大改正/ここだけは押さえたいポイント~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。

 

2026年前後の国会審議を見据えて、労働基準法の見直しの議論が活発化しています。とくに、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」報告書(2025年1月公表)や、その後の労働政策審議会(労働条件分科会)資料では、今後の法改正に向けた論点が具体的に整理されています。

 

巷では40年ぶりの大改正と言われる今回の労働基準法の見直しについて、具体的な中身を事前に確認していきましょう!
※2025年11月時点では、これらの内容を盛り込んだ「労働基準法改正案」は、あくまでも「検討中」なものであり、確定情報ではない旨のご認識をお願いいたします。

 

本コラムでは、企業実務に影響が大きそうな4つの論点(法定休日、勤務インターバル、有給休暇、副業)に絞って、次の内容を整理していきます。

<4つの論点の整理>

①現行ルールはどうなっているか

②報告書などでどのような見直し方向が示されているか

③企業として今から何を準備すべきか

 

1.連続勤務の上限規制と「法定休日」の明確化

 <現行ルール>

  • 毎週少なくとも1回の休日、または4週間を通じて4日以上の休日があればよいとされている。
  • どの日を「法定休日」とするかは、法律上は明確な指定義務まではなく、就業規則等で「4週4日休み」などと幅広く書く運用も多い。

そのため長期間の連続勤務も可能であることが、厚労省の研究会報告書でも問題視されています。

 

<報告書で示された見直しの方向性>

研究会報告書では、大まかに次のような考え方が示されています。

  • 現行の「4週4日」だけでは、過度な連続勤務を防ぎきれない。
  • 労災リスクなども踏まえ、一定期間(例:2週間)ごとに最低限の休日数を確保する枠組みを検討すべき。
  • あわせて、
    • 「どの日が法定休日か」を事前に特定すること
    • 長期の連続勤務が生じないよう、就業カレンダー等で分かりやすく管理すること
      を、ルールとして明確にしていくことが適当とされています。

あくまで「報告書レベル」の提言ですが、連続勤務の上限を法律でより具体的に押さえる方向性が示されているというイメージです。

 

<企業が今からできること>

  • 自社のシフト/就業カレンダーの洗い出し
    • 実務上、最長何日連続勤務が起き得るか
    • 各部署に「連勤の山」がないか
  • 就業規則や勤務表で、「週○曜日を法定休日とする」など、休日の位置づけをできるだけ明確にする。
  • 36協定の内容も含め、「実務上はすでに連続勤務を抑制できているか」を確認しておく。

将来、法改正で上限が明文化された場合でも、「すでに社内で同等レベルの運用ができている」状態にしておけると安心です。

 

2.勤務間インターバル制度の「努力義務」から一歩前へ?

 <現行ルール>

  • 労基法自体には、「退勤から次の出勤まで○時間空ける」といった規定はない。
  • 2019年の働き方改革関連法で、勤務間インターバル制度(1日の勤務終了から翌日の勤務開始までに、一定時間以上の「連続した休息時間」を確保する制度)の導入が「努力義務」にとどまっている。
  • 厚労省の白書や調査でも、導入企業は増えているが普及してきたとは言い難い水準であると示されている。

 

<報告書での議論・方向性>

研究会報告書では、EU指令による「1日11時間の連続休息」など諸外国の制度も踏まえ、

  • 勤務間インターバルを、法律上の原則として位置づけること
  • そのうえで、業種・職種やシフトの実情に応じて、例外や運用の柔軟性をどこまで容認するかといった点が検討課題として整理されていること

すぐに「一律11時間義務化」と決まったわけではないですが、「休息時間をしっかり確保する」方向に舵を切ること自体は明確と言えます。

 

<企業が今からできること>

  • 現状のシフトで、退勤~翌出勤までの時間が極端に短いケースがないか確認する。
  • 例えば「シフトの間は原則○時間以上あける」といった社内ルールを先行導入しておく。
  • 深夜残業が多い部署については、翌日の出社時刻を柔軟に調整できる仕組みを検討する。

法改正で勤務間インターバルが義務化された場合、「シフト設計をゼロから作り直す」となると負荷が大きいため、今のうちから“インターバル前提”のシフト感覚に慣れておくことが鍵になります。

 

3.年次有給休暇制度(とくに賃金算定方法)の見直し

<現行ルール>

有給を取得したときの賃金は、労基法39条に基づき、原則として次の3つのいずれかの方式を就業規則等で定めればよいとされています。

  • 通常の所定労働時間を働いた場合に支払われる通常の賃金
  • 過去3か月の平均賃金
  • 健康保険の標準報酬月額のような「平均的な額」をベースにした方法(労使協定が必要)

 

<報告書での見直し方向>

研究会報告書では、有給制度について、概ね次のような点が提言されています。

  • 有給取得を促進するという本来の趣旨を踏まえ、賃金水準が下がるような算定方法は望ましくないこと。
  • そのため、原則として「所定労働時間働いた場合と同じ『通常の賃金』を支払う方式」を基本形に位置づける方向で整理すべきであること。
  • 企業規模や業種によって、必要な経過措置・例外的な取扱いについて検討する必要があること。

つまり、法改正が行われた場合には、「有給=その日働いたときと同額の賃金」がより一層スタンダードになる可能性が高いと言えます。

 

<企業が今からできること>

  • 就業規則で採用している有給の賃金算定方法を見直す。
  • 「平均賃金方式」などを用いている場合、
    • システム改修の難易度を確認する。
    • 人件費への影響を試算したうえで、通常の賃金方式への一本化を前提に検討しておく。
  • 併せて、有給の管理簿・取得ルールを整理し、“取りやすさ”と“管理のしやすさ”を両立させる運用を見直す。

 

4.副業・兼業と割増賃金(時間外割増の通算ルール)

<現行ルール>

現行の労基法38条では、事業主が異なる場合においても、労働時間を通算して時間外・割増賃金の基準を判断する考え方が示されています。

一方で、厚労省の「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関するガイドライン」等では、

  • 本業・副業それぞれの事業主が、他方の勤務状況を正確に把握することは実務上困難であること
  • 健康確保の観点から、労働時間の通算自体は重要であること

などが整理されており、「健康確保」と「割増賃金の支払い義務」のバランスが課題とされています。

 

<報告書での見直し方向>

研究会報告書では、副業・兼業について、概ね次のような方向性が示されています。

  • 副業・兼業の促進という政策目標と、労働者の健康確保の両立という観点から、「労働時間の通算」の扱いを整理し直すべき。
  • 健康確保という点においては、通算した実労働時間を把握・管理することを重視。
  • 一方で、時間外割増賃金の支払義務を「複数の事業主で通算」する現行ルールは、実務上の限界が大きい。

そのため、割増賃金の支払い自体は「事業主ごと」に完結させる方向で整理する一方で、通算時間は健康管理(労働時間の上限・面談等)のために活用するといった見直しが検討課題として挙げられています。

 

<企業が今からできること>

  • 就業規則で副業・兼業がどのように扱われているか確認・整備する。
    • 許可制にするのか
    • 届出制にするのか
    • 健康管理のためにどこまで情報提供を求めるか
  • 副業者がいる場合、
    • 長時間労働が生じていないか
    • 産業医・保健師との連携が必要なケースがないか
      をチェックする仕組み化の検討。
  • 将来的に、割増賃金の通算ルールが見直された場合でも、「健康確保のための通算管理」は続く可能性が高いため、情報収集と労務管理のフローを今のうちから整理しておく。

 

おわりに:2026年に向けて「今からできる準備」を

ここまで見てきた4つの論点は、いずれも「連続勤務・休日」「勤務間インターバル(休息時間)」「有給の賃金水準」「副業・兼業と割増賃金」という、「働き方そのもの」に直結するテーマです。

繰り返しになりますが、2025年11月時点では、これらはあくまで厚労省の研究会報告書や審議会資料で示された「検討の方向性」ですので、最終的な改正内容は今後の国会審議で変わり得ます。

いずれにせよ、どの論点も

  • 労働者の健康確保
  • 働き方の多様化への対応
  • ルールの「わかりやすさ」の向上

という方向で、大きく逆行することは考えにくいテーマです。条文が確定するのを待つのではなく、今から少しずつ労務管理を“アップデート”しておくことで、改正時のショックを和らげることにつながります。

 

<チェックリスト>

項目 やるべきこと
シフト・勤務実態の棚卸 各部署ごとに「最長の連続出勤日数」「深夜 → 翌朝の出勤(インターバル時間)」「休日の未特定・流動性」を洗い出す。
就業規則・勤務表見直し 「法定休日を事前に特定」「勤務間インターバルの社内ルール化」「副業・兼業の扱いの明文化」「管理職を含む労働時間把握の明文化」など、報告書の論点を意識したドラフトを検討。
勤怠管理システムの検討/導入 連続勤務チェック、インターバルチェック、全従業員の労働時間把握、副業を含めた労働時間通算または管理、割増賃金算定などに対応したシステム(特にクラウド型)を検討する。
契約書の見直し(正社員・パートだけでなく、業務委託・外部人材含む) 副業・兼業者や委託先との契約内容を、「労働者/準委託/業務委託」の区分があいまいにならないよう洗い直す。必要に応じて社会保険、労災の適用可否などを再確認。
人件費・人員配置の見直し 週44時間特例廃止や時間外割増の増加、休日・休暇の取りやすさ改善などによるコスト試算と人員再配置(または増員)の必要性を検討。
働き方の見直し/業務効率化の検討 長時間働かずとも成果を出す業務プロセスの省力化、自動化、無駄削減を検討。DXや業務構造の見直しの検討を。
従業員向け説明と教育準備 改正の方向性、制度変更の可能性、副業や休暇の取りやすさ/ルール変更などを、管理職や労働者にわかりやすく説明できる体制準備。

 

JGA税理士法人では、税務・社会保険料負担の観点を踏まえつつ、皆様の会社の“これからの働き方”づくりをサポートしてまいります。

 

【筆者紹介】

JGA税理士法人

代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはアメリカに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にアメリカ移転価格税制協力会の発起人としてアメリカ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる