●税理士業界は「入力する時代」から「設計し、承認する時代」へ
●JGAが進めるAIエージェント経理の全体像
税理士業界は、これから大きく変わります。これまで人が手で行ってきた入力、チェック、資料作成の一部は、AIエージェントが担う時代になります。一方で、税務判断、最終承認、顧客への説明責任までAIに丸投げできるわけではありません。JGAが目指すのは、AIに作業を任せ、人間が判断と設計に集中する「Human in the loop」型の会計事務所です。
目次
1. 税理士業界はどのような時代に入るのか
これからの税理士業界では、「作業量」そのものよりも、「業務をどのように設計し、どこを人間が確認し、どこまでAIに任せるか」が重要になります。
従来の会計事務所では、資料を回収し、会計ソフトに入力し、チェックし、月次報告を作るという流れが中心でした。しかし、AIエージェントが業務ツールやファイルに接続できるようになると、入力や一次チェック、レポートの下書きはAIが担える領域になります。
そのため、今後は税理士業界の中でも、AIを単なるチャットの相談相手として使う事務所と、業務フローの中に組み込み、再現性のある仕組みにできる事務所で差が広がっていくと考えています。

この図で重要なのは、AIを「使える」だけでは足りないという点です。会計事務所として本当に価値を出すためには、AIで何ができるかを構想し、業務手順、権限、確認フロー、顧客別ルールまで設計する必要があります。
JGAでは、まず所内でAIを使って作業ができる状態を作り、そのうえで、AIエージェントの仕組みを理解し、業務再設計まで踏み込める組織にしていきます。
2. なぜAIエージェント経理が必要になるのか
AIエージェント経理の前提になるのが、AIと業務ツールをつなぐ仕組みです。これまでは、会計ソフト、ストレージ、チャット、プロジェクト管理ツールなどを個別に接続する必要がありました。接続先が増えるほど、運用は複雑になります。
そこで重要になるのがMCPです。MCPは、AIと外部ツールをつなぐための共通の接続口です。会計事務所の業務に置き換えると、AIが会計データ、証憑、顧客別ルール、過去の判断に安全にアクセスするための「窓口」と考えるとわかりやすいです。

会計事務所の業務は、単に会計ソフトへ入力するだけではありません。証憑を読み、過去の処理を確認し、顧客ごとのルールを踏まえ、必要に応じて顧客へ確認します。AIがこの一連の流れを支援するには、会計データに安全にアクセスできる仕組みが必要です。
つまり、これからの会計事務所では「AIを導入するかどうか」ではなく、「AIが安全に働ける業務環境を設計できるか」が問われます。
3. JGAの方向性:100%自動化ではなく、統制された自動化
JGAが目指すのは、会計業務をいきなり100%自動化することではありません。税理士業務には、税務判断、顧客への説明、重要な方針決定、最終責任が伴います。これらはAIに丸投げする領域ではありません。
一方で、AIに任せられる業務は確実に増えています。仕訳案の作成、仕訳チェック、月次コメントの下書き、顧客確認事項の抽出、議事録や提案書の一次作成は、AIが得意とする領域です。

この仕組みの本質は、AIが会計データに安全にアクセスし、所内ルールに沿って下書き、チェック、説明資料を作ることです。正本データはMFクラウド会計、証憑、顧客回答、税法・会計基準です。AIの出力は、正本ではなく、あくまで人間が確認するための作業結果です。

JGAでは、担当者が入力作業に時間を使うのではなく、例外判断、顧客説明、業務改善、提案活動に時間を使える組織を目指します。AIは人を置き換えるためではなく、人がより価値の高い仕事に集中するための実行役として位置づけます。
JGAの基本方針:AIは下書き・チェック・資料作成を担う。登録・送信・税務判断・顧客別の重要方針は、人間が確認し、承認する。
4. 全体像:Claude Code × MFクラウド会計 × MCPサーバー
AIエージェント経理の全体像は、シンプルに整理すると次の構成になります。
MFクラウド会計は、仕訳、試算表、マスタ、明細などの正本データを持つ会計基盤です。MCPサーバーは、AIと会計データを安全につなぐ接続口です。Claude Codeは、自然言語の指示を受けて業務手順を実行するAIエージェントです。

この構成で大切なのは、AIが勝手に会計データを書き換えるのではなく、まずデータを取得し、下書きを作成し、人間が確認してから次の処理へ進めることです。
会計事務所の実務では、対象事業者の取り違え、会計年度の誤認、税区分の誤り、証憑不足、顧客別ルールの見落としなどが起こり得ます。そのため、AIを使うほど、ルールと権限の設計が重要になります。

JGAでは、AIエージェント経理を「教える」「つなぐ」「制約する」の3層で考えます。
- 教える:所内ルール、顧客文脈、成果物の形式をAIに与える。
- つなぐ:AIがMFクラウド会計などの必要データへアクセスできるようにする。
- 制約する:危険操作、誤送信、過剰権限、証跡不足を防ぐ。
この3層がそろうことで、AIは単なる便利なチャットではなく、会計事務所の業務フローの中で働く実行役になります。
5. AIを事務所スタッフにする5要素
AIを会計事務所の業務に組み込むうえで重要なのは、AIに「何を知っていてほしいか」「何をしてよいか」「何をしてはいけないか」を明確にすることです。
JGAでは、AIを事務所スタッフとして機能させるために、次の5要素を整備していきます。

CLAUDE.mdは、AIへの自己紹介と所内ルールです。Skillsは、仕訳チェック、税区分判定、月次レビューなどの業務マニュアルです。MEMORY.mdは、顧問先ごとの履歴や特殊ルールを蓄積するカルテです。settings.jsonは権限設定です。Hooksは危険操作を構造的に止める安全装置です。
従来、会計事務所のノウハウは、ベテラン担当者の頭の中に蓄積されがちでした。しかし、AI時代には、その暗黙知をルール、チェックリスト、顧客別カルテとして形式知化することが重要になります。

AIは強力な道具ですが、強力であるほど手綱が必要です。削除コマンド、外部送信、会計データの更新、顧客情報の読み取りなどは、指示文だけで防ぐのではなく、権限設定やHooksで止める必要があります。
「気をつける」だけでは、事故は防げません。構造として、危険な操作をできないようにする。これが、JGAが考えるハーネス設計です。
6. JGAが遂行していく業務フロー
JGAがAIエージェント経理でまず取り組む業務は、大きく3つです。1つ目は、請求書PDFや明細から仕訳案を作る業務です。2つ目は、既存仕訳のチェック業務です。3つ目は、月次レポート、提案書、議事録、顧客確認事項の作成業務です。
業務フロー1:請求書PDFから仕訳案を作る
請求書PDFから取引日、金額、取引先、税率などを抽出し、会計マスタと照合したうえで、仕訳案を作成します。ただし、初期段階ではAIが行うのは仕訳案の作成までです。登録するかどうかは、人間が確認します。

税区分、固定資産、役員・親族取引、交際費、寄附金、外貨、非経常取引などは、AIが安易に登録すべき領域ではありません。これらは顧客確認または担当者確認に回します。
業務フロー2:仕訳チェック
2つ目は、仕訳チェックです。AIがMFクラウド会計から仕訳、マスタ、試算表を取得し、チェックルールに沿って異常値、補助科目漏れ、部門漏れ、税区分の異常、重複仕訳などを抽出します。

仕訳チェックでは、すべてをAIに直させるのではなく、「スキップ」「自動修正案」「クライアント確認」のように分類することが重要です。確認が必要なものを明確にし、人間が判断しやすい状態に整えることが目的です。

一度決めたチェック手順は、Skillsやチェック一覧に反映します。これにより、担当者ごとのチェック品質の差を減らし、毎月の月次業務の再現性を高めることができます。
業務フロー3:月次レポート・提案書・議事録
3つ目は、月次レポート、提案書、議事録、顧客確認事項の作成です。AIは、試算表や推移表をもとに増減分析や異常値抽出を行い、コメント原案を作成します。人間は、経営者に伝わる表現、税務上の示唆、資金繰り上の論点、提案範囲を調整します。

ここで重要なのは、AIが作る成果物を最終成果物にしないことです。AIは下書きを作り、人間が編集し、顧客に伝わる形に仕上げる。この役割分担により、作成時間を短縮しつつ、顧客への説明品質を高めることができます。
7. ガードレール設計が競争力になる
AIエージェント経理で最も重要なのは、AIの賢さではなく、業務環境側の設計です。AIがどれだけ高性能でも、対象事業者を取り違えたり、誤って仕訳を登録したり、顧客情報を外部に送信したりすれば、実務では使えません。
そのため、JGAではリスクごとにガードレールを設計します。対象事業者の確認、登録前の承認、外部送信の確認、削除コマンドの制限、公式ツールのみの利用、監査ログの保存などを、運用ルールとして整備します。

AIに「誤登録しないで」と指示するだけでは不十分です。仕訳作成や更新の権限をAskにする、削除系操作をDenyにする、登録前に顧客名・会計年度・件数・金額合計を表示するなど、実行環境側で止める必要があります。

導入は段階的に行います。最初はRead onlyで、取得と分析だけを行います。次にDraftで、下書きや修正案を作成します。その後、人間承認後のみ書き込みを許可するApprove & Writeへ進み、最終的に顧客別ルールと監査ログを前提に横展開していきます。
いきなり自動登録を目指さないことが、結果的に安全で早い導入につながります。最初から確認をデフォルトにし、危険操作はHooksで強制的に止める。これが実務導入の前提です。
8. 導入ロードマップとJGAの実行方針
JGAでは、AIエージェント経理を段階導入します。最初に安全に試せる環境を作り、テスト顧客でRead only運用を行います。その後、仕訳案、修正事項一覧、顧客確認事項の標準化を進め、低リスク取引から承認付き登録を試します。

導入にあたっては、会計データが一定程度整っていること、科目・補助・部門・税区分の所内ルールが文書化されていること、登録系操作を承認制にできること、顧客別フォルダや証憑保存場所が決まっていることが前提になります。

特に重要なのは、1事業者1セッション、登録前の二重確認、高リスク取引の自動対象外、顧客確認事項のファイル化、所内ルールのSkills化、例外処理のMEMORY.md反映です。
これらは一見すると細かい運用ルールに見えます。しかし、AIを実務で使ううえでは、この細かいルールこそが品質を左右します。属人的なチェックに頼るのではなく、仕組みとして同じ品質を出せる状態を作ることが、JGAの目指すAIエージェント経理です。
最後に:AI時代の会計事務所に必要なこと
AI時代の会計事務所に必要なのは、「AIを使っています」という表面的な導入ではありません。必要なのは、業務のどこをAIに任せ、どこを人間が承認し、どのように証跡を残し、顧客にどのような価値を返すかを設計することです。
JGAは、入力作業を中心とした会計事務所から、AIを活用して下書き・チェック・資料作成を効率化し、人間が判断、説明、提案、業務改善に集中する会計事務所へ移行していきます。
そのために、Claude Code、MFクラウド会計、MCPサーバーを活用しながら、CLAUDE.md、Skills、MEMORY.md、settings.json、Hooksを整備し、統制されたAIエージェント経理を段階的に実装していきます。

これからの税理士業界では、単に作業が早いだけでは差別化が難しくなります。重要なのは、AIを安全に使いこなし、顧客ごとの事情を踏まえ、経営者にとって意味のある説明と提案に変換できることです。
JGAは、AIに作業を任せるだけでなく、AIが安全に働ける仕組みを設計し、税理士業務の品質とスピードを両立する組織を目指していきます。
9. 最後に:GitHubを使う場所と使わない場所を分ける
AIエージェント経理を所内で横展開するうえでは、GitHubの活用も重要になります。ただし、ここで最も大切なのは、GitHubに顧客情報や個人情報を置かないことです。
GitHubに置くべきものは、顧客データではありません。置くべきものは、CLAUDE.md、Skills、チェックリスト、プロンプト雛形、出力フォーマット、Hooks設定の雛形など、業務を再現可能にするためのフレームワークです。
つまり、GitHubは「顧客データを集める場所」ではなく、「業務の型をバージョン管理する場所」と位置づけます。顧客名、担当者名、メールアドレス、証憑、試算表、仕訳データ、相談履歴などはGitHubに一切置かず、MFクラウド会計、証憑管理フォルダ、顧客別の管理領域など、本来保管すべき場所に分離します。
この考え方は、セキュリティ上も重要です。2026年にマネーフォワードは、同社が利用するGitHubへの不正アクセスに関して、GitHub上のリポジトリに含まれていた個人データの範囲について公表しました。同社の公表では、本番データベースへの不正アクセスや本番環境からの情報漏えいは確認されていない一方で、GitHub上のリポジトリにお客さまに関する氏名・メールアドレス等が含まれていたことが説明されています。
この事案から学ぶべきことは、GitHubそのものを避けることではありません。むしろ、GitHubを使うなら「何を置くか」と「何を絶対に置かないか」を最初に決める必要があるということです。本来、GitHubには顧客情報や個人情報を一切置かず、業務ルール、テンプレート、チェック手順、AIの実行制御といったフレームワークだけを置くべきです。その意味で、顧客情報がGitHub上のリポジトリに混入していたという運用には、外部から見ても疑問が残ります。
JGAでは、GitHubを業務標準化の基盤として使います。しかし、管理するのは顧客データではなく、業務を安全に回すための設計図です。顧客情報を持ち込まない、個人情報をコミットしない、環境変数や認証情報を置かない、変更履歴をレビューする、危険な変更は承認制にする。この前提を置くことで、AIエージェント経理を安全に横展開できる環境を構築します。
参考:マネーフォワード「GitHubへの不正アクセスに関する詳細調査の完了およびセキュリティ対策強化のお知らせ(第四報)」
※本記事は、JGA税理士法人内で整理した「AIエージェント経理」の全体像をもとに、外部公表用のコラムとして再構成したものです。
筆者紹介
JGA税理士法人
代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスに長く携わる。税理士法人時代から国際ビジネス支援に従事し、2013年にはメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポートおよび現地日系企業への経営コンサルティングを主に担当。2016年にはアメリカに渡り、Bridge Note (Thailand) Co., Ltd.(現 BM Accounting Co., Ltd.)を立ち上げ、次いでインドネシアの PT. Bridge Note Indonesia の移転価格事業部を組成した。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる。
