皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。
今まで「医療法人化のシミュレーション」を3回ほど執筆しましたが、いかがでしたでしょうか。本記事を読んでいる皆様は、医療法人化をキャッシュフローの減少によって後悔しているドクターが多いという現状を知ったうえで、この第4回の内容に辿りついているものと思います。
そのため、今回のシミュレーションはより具体的な内容に入っていきましょう。
今回はMS法人についてお話しします。おそらくここまで残ったドクターもこのMS法人を確認した後には、多くは医療法人化を“しない”と結論付けることになるのではと考えています。
【MS法人とは?】
MS法人とはメディカル・サービス法人の略称であり、その目的を“グループにおける非医療行為を専門に担うことを目的”として設立される法人を言います。つまり、医療行為はクリニックに、非医療行為はMS法人にというような具合です。
医療法人化シミュレーション①にて、所得を分散して(累進課税で高税率だったドクターの個人所得税の)税率を下げられるため、医療法人化が有利であると記載しました。今日の論点は、「でもそれって医療法人化が全てでないですよね?」というお話しです。
まずは、近代の日本の節税について税理士の目線から解説します。
【近代の節税について】
節税には2つのパターンしかありません。
①時間軸をずらす方法
②国や地域、法人をずらして異なる税率を利用する方法
時間軸をずらす方法の最も有名なものが保険による節税です。保険料を損金に算入して節税効果を得るというものですが、これは返戻金で益金算入されるまでの時間の繰延です。その他にも航空機リースも保険と同様のスキームですし、決算期に必要なものを経費として落とすことも経費の前倒しという意味では時間軸のずれによるものです。
ただ、これらのほとんどが意味ありません。昔はかなり有利な保険もあったのですが、節税に積極的に利用されたことで有利なものは規制によりほとんどなくなりました。
近代の節税は②しかありません。2010年頃に流行ったパナマ文書は軽課税国(タックスヘイブン)に法人を設立して利益を付け替えるスキームですし、もっと言えばアメリカのIT大手のほとんどは自国で税金を払っていません(・・・というよりもケイマン諸島などに利益の多くを付け替えてどの国でも税金をほとんど払っていません)。
日本においては、目的別に複数法人を設立して(管理面からも有意義なスキームを構築して)、結果として15%の中小企業の特例税率を利用しているということが今は一番有名な節税かもしれません(MS法人の設立も、管理上において、目的別に法人を設立して、結果として税率が安くなるというもの)。はたまた、目的によって会社を分散し、かつ、役員報酬を家族で分散して給与所得控除がより多くとれるようになったというものも②の節税の一環でしょう。
【MS法人による所得分散のスキーム例】
①不動産(駐車場)の賃貸・管理
②医療材料/機器の販売や賃貸
③医療事務(保険請求事務含む)/経理事務等の管理部門の受託
④医療DX化事務の受託
⑤予約サイト、ウェブサイト、ランディングページ作成と関連業務の受託
⑥介護サービスの受託
⑦院内給食や院内清掃の受託
⑧人材派遣サービス
クリニックと関係があるものはMS法人として設立することができます。・・・と言ってもMS法人は、法律で定められた人格はないため、普通の株式会社か合同会社です。運営の維持が医療法人と密接にかかわるため、便宜的にMS法人と呼ばれているのです。
少し長くなりそうなので、今回はここまで、次回は「なぜ医療法人でなければならないのか?」と題して、更に医療法人とMS法人の比較を行ってまいります。結論は「医療法人の設立は必要なし!!」となりそうですが、、、はたしてどうなるでしょうか。次回もお楽しみに。
※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。