親子ローン利息取引の判例分析~移転価格税制~

皆様こんにちは、JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今日は、最近(2022年OECD移転価格ガイドラインで)厳しくなった「親子ローンにおける利息取引」に関しての判例分析を行います。

 

かなり長くなりますので、お時間があるときにお読みいただければ幸いです。「親子ローンにおける利息取引」の考え方を主に抽出した分析ですので、楽しんで頂ければ!

 

【呼称】

利息取引事件/東京地裁判決(H18年10月26日東京地裁判決を総称して「利息取引事件」としています。)

 

【事案の概要】

X社(納税者)は、タイ国に95%所有のA社(国外関連者)を設立し、平成9年1月から平成10年11月までの間、6回にわたり、貸付期間10年間、利率2.5%∼3.0%(固定金利)で総額1億2,822万5,000タイバーツの貸付を行った。これに伴い、X社は、平成10年3月期∼平成12年3月期において、その受取利息を益金として法人税の申告をした。

これに対し、Y税務署長は、A社が非関連者である銀行からスプレッド融資を受けた場合を想定し、銀行がロンドン市場において、タイバーツを短期変動金利で調達するとともに、スワップレートによる金利スワップ取引を行い、実質的に長期固定金利の資金を調達した債務状況とした上で、この調達金利にX社の信用力を基に算定したスプレッドを加算して金利が独立企業間価格として、上記受取利息との差額を所得金額に加算し、本件更正処分を行った。

 

【取引関係図】

※太田洋・手塚崇史 『近時の移転価格裁判例の動向』 (租税研究,日本租税研究会,723号,2010年)163頁 参照

 

【判旨(比較対象取引の要実在性について)】

Ⅰ 調達金利は、ロンドン金融市場において本件各貸付と同時期に同通貨による同金額、同期間の資金調達をする場合の金利スワップによる利率(スワップレート)を用いた。X社は、A社に対し、平成9年1月から平成10年11月までの間において、6回にわたり、利率を年2.5ないし3.0%の固定金利、貸付期間を各10年とし、利息の支払は年1回の後払、元本の返済は貸付の4年後から1年ごとに7回に分けて均等に返済するとの約定で、総額1億2,822万5,000タイバーツの貸付を行った。

Ⅱ 独立価格比準法を、金銭の貸付に係る国外関連取引に適用される「同等の方法」に引き直すと、非関連者間において、〔1〕当該国外関連取引に係る通貨と同一の通貨を、当該国外関連取引と貸付時期、貸付金額、貸付期間、金利の設定方式(固定か変動か、単利か複利か等)、利払方法(前払か後払か等)、借手の信用力等が同様の状況の下で、貸し付けた取引がある場合、又は、〔2〕当該同一の通貨を、上記貸付時期等に差異のある状況の下で貸し付けた取引があり、当該取引について、その差異により生じる対価(利息)の額の差を調整できる場合に、その対価の額(〔1〕)又は調整を行った後の対価の額(〔2〕)に相当する金額をもって、当該国外国連取引に係る独立企業間価格とする方法をいうものと解される。

Ⅲ 例えば原油、農産物等の取引市場で売買される商品(棚卸資産)の場合には、市場価格が存在し、その市場価格によって、市場に参加する不特定多数の非関連者間で現実に売買取引が成立し、又は成立し得るのであるから、そのような市場価格を基礎とする取引を想定して比較対象取引とすることも、実在する非関連者間の取引を比較対象取引とする方法に準ずる方法として、有用かつ相当なものと認めることができる(下線:筆者)。この点は、国内及び国際的に金融市場が存在する通貨の貸借取引についても同様のことがいえる。

Ⅳ したがって、措置法66条の4第2項の規定は、国外関連取引と比較可能な非関連者間の取引が実在する場合には、同項1号イ及び2号イにより、当該実在の取引を比較対象取引とすることを原則とするが、そのような取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような「仮想取引」を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、同項1号ニの「準ずる方法」及び同項2号ロのこれと「同等の方法」として許容する趣旨と解するのが相当である(下線:筆者)。

Ⅴ 本件各貸付の利率は年2.5ないし3.0%であるところ、当時のタイ国内の商業銀行の預金利率(タイバーツ建て12か月もの定期預金)が年6.0ないし10.0%であったことと比較しても、相当に低い利率であり、X社としては、本件各貸付を行うよりも、当該預金利率で預金をした方が、より多額の利息を得ることができたということができる。

Ⅵ X社の主張は、X社のような貸付を業としない一般企業の行う貸付と金融機関の行う貸付とでは、考慮すべき要素が異なり、その間の差異の調整が不可能であるか又は差異の調整が可能であったとしても、Y税務署長の想定する比較対象取引においては何らの調整も行われていないから、本件各貸付との比較可能性がないというものと解される。

Ⅶ しかしながら、貸付を行う際の貸手の考慮要素としては、資金の調達コスト、事務経費の額、借手の信用力等であるところ、経済合理性を追求する非関連者間での金銭の貸借取引において、貸手が金融機関であるかその他の一般企業であるかなど、貸手が誰であるかの違いによって、このような考慮要素の点で有意な差を生ずるものとは考え難い(X社は、金融機関の行う貸付に当たっては、常に調達コストを考慮する必要があるのに対し、一般企業の行う貸付には、調達コストを要しない手持資金の貸付もあり得、現に本件各貸付もそのようなものであったのであるから、この両者を単純に比較するのは不当であるという趣旨の主張をする。しかしながら、一般企業の「手持資金」なるものも、様々なコストをかけて得られたものであることが通常であるし、その運用に当たっても、金融機関による融資に準じた融資を含めた様々な運用方法があり得るのであるから、手持資金の貸付であるから調達コストを考慮する必要はないと断定することは困難であり、むしろ、あるべき標準的取引価格を求めようとする独立企業間価格の算定に当たっては、特段の事情がない限り、融資取引の代表例である金融機関による貸付を基準とすることにも十分な合理性がある(下線:筆者)ものというべきである)。したがって、金融機関による融資取引を比較対象取引とするに当たり、貸手が誰であるかという点の差異を調整する必要はないものというべきであり、この点において、Y税務署長の想定する比較対象取引には本件各貸付との比較可能性が認められるから、X社の主張は理由がない。

Ⅷ 措置法66条の4第2項は、国外関連取引について、独立企業間価格の算定方法を規定するものであり、まず基本的な取引である棚卸資産の販売又は購入について、基本三法の内容を具体的に規定した上で、基本三法を用いることができない場合には、これに「準ずる方法」として、基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定め、次に棚卸資産の販売又は購入以外の取引について、以上の各方法と「同等の方法」として、それぞれの取引の類型に応じて、基本三法及びこれに「準ずる方法」と同様の方法を用いるべきことを定めるものである。以上の規定内容は、その文言から明確に読み取ることができ、租税法律主義(憲法84条)に違反する抽象的で不明確な条文ということはできない(下線:筆者)。

 

なお、当該判決において争点となった問題点とその具体的な判断基準については、次のとおりである。

 

【「利息取引事件/東京地裁判決」における問題点と判断基準】

問題点 判例において問題点と照合する判断 判断基準
実在性の問題点①:

情報の入手可能性

市場価格等の客観的かつ現実的な指標が存在し、その市場価格によって、市場に参加する不特定多数の非関連者間で現実に売買取引が成立し、又は成立し得る。したがって、市場価格を基礎とする取引を想定して比較対象取引とすることも、実在する非関連者間の取引を比較対象取引とする方法に準ずる方法として、有用かつ相当なものと認めることができる。 不特定多数の非関連者間においても、「現実的に取引が成立する」といえること
実在性の問題点②:

入手した情報の客観性

取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような仮想取引を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、「準ずる方法」として許容する趣旨と解するのが相当である。 実在性(仮想取引に対する合理性)に対する判断基準であり、市場価格等の「客観的かつ現実的な指標」が必要なこと
実在性の問題点③:

租税法律主義の観点からの適正性

「基本三法に準ずる方法」とは、基本三法の内容を具体的に規定した上で、基本三法を用いることができない場合には、これに「準ずる方法」として、基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定めるものである。この規定内容は、その文言から明確に読み取ることができ、租税法律主義(憲法84条)に違反する抽象的で不明確な条文ということはできない。 租税法律主義の機能の一側面である納税者の予見可能性の観点から、「規定内容を、その文言から明確に読み取ることができる」こと

※表中下線:筆者

 

【実在性に関する問題点①:情報の入手が適正にできる状況にあったか】

「基本三法に準ずる方法」は、「取引内容に適合」し、かつ、「基本三法の考え方から乖離しない場合」において認められるものであり、「取引内容に適合する」比較対象取引であることはもちろんのこと、X社においてY税務署長が採用した比較対象取引である「仮想取引」が利用可能であったかも考察が必要である。

この点に関し、駿河台大学法科大学院教授の今村隆氏も自身の執筆(今村隆 『移転価格税制における独立企業間価格の立証∼最近の裁判例を素材にして∼』(租税研究,日本租税研究協会, 715号, 2009年)255頁)にて述べられているが、「取引内容に適合する」という具体的事実は2つあると考えられる。

 

<取引内容に適合する具体的事実>

イ 本件国外関連取引が円から交換したタイバーツによる長期間の貸付であること

ロ タイバーツについて国際的に金融市場が存在し、金融機関が同市場において円からタイバーツを短期変動金利で調達するとともに、上記イと同一期間の金利スワップ取引を行うに当たってのコストを算定できること

 

X社が当該仮想取引を利用可能であったかについては、上記ロを検討することが必要であり、①国際的な金融市場が存在すること、②当該金融市場において円からタイバーツを短期変動金利で調達できること、③長期貸付期間の金利スワップ取引を行うに当たってのコストを算出できること(具体的には、ロンドン市場における固定スワップレート及びX社の信用力を加味したスプレッド)、これらの具体的事実を確認することにより、X社は当該仮想取引を利用可能であったことが分かる。

つまり、「基本三法に準ずる方法」において、「仮想取引」が認められるためには、「取引内容に適合すること」として、市場価格等の「客観的かつ現実的」な指標が必要なことが考えられる。

 

【実在性に関する問題点②:仮想取引のような実在しない取引を比較対象取引とすることに合理性はあるか】

上記、問題点①からも解るように、市場価格等の「客観的かつ現実的な指標」であれば、仮想取引のような実在しない取引についても合理性があるものと考えることができる。これは判旨において、「市場価格を基礎とする取引を想定して比較対象取引とすることも、実在する非関連者間の取引を比較対象取引とする方法に準ずる方法として、有用かつ相当なものと認めることができる(下線:筆者)」とされている点からも明らかである。この点は、国内及び国際的に金融市場が存在する通貨の貸借取引についても同様のことがいえる。

したがって、措置法66条4②の規定は、国外関連取引と比較可能な非関連者間の取引が実在する場合には、当該取引を比較対象取引とすることを原則とするが、「そのような取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような「仮想取引」を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、同項1号ニの「準ずる方法」及び同項2号ロのこれと「同等の方法」として許容する趣旨と解するのが相当である。(下線:筆者)」として明確にされている。

ただし、この市場価格等の「客観的かつ現実的」な指標が存在したとしても、すなわち「基本三法に準ずる方法」が採用することができるわけではないことに留意する必要がある。アドビ事件/東京地裁・高裁判決において記述したように、「基本三法に準ずる方法」は、「(取引内容が)適合することと(基本三法の考え方から)乖離しないことの複合要素」から判断することが必要であるが、当該客観的な指標は「適合すること」を満たすものであり、「乖離しないこと」の検証が必ず必要になる。

アドビ事件/東京地裁・高裁判決の判例分析と並列で作成しており、本コラム中に「アドビ事件/東京地裁・高裁判決」という単語が複数回出てまいりますが、現在(2023年末)において、この「アドビ事件/東京地裁・高裁判決」の判例分析の記事はアップしていません。今後アップロード予定ですので、今しばらくお待ちいただければ幸いです。

⇒2024年3月にアップロードしました。よろしくお願いいたします。

本件においては、X社は、「手持ち資金で貸し付けており、円からタイバーツに交換するにあたり調達コストを要さない(つまり、独立価格比準法の考え方から乖離している)」と主張しているが、判旨において、「一般企業の「手持資金」なるものも、様々なコストをかけて得られたものであることが通常であるし、その運用に当たっても、金融機関による融資に準じた融資を含めた様々な運用方法があり得るのであるから、手持資金の貸付であるから調達コストを考慮する必要はないと断定することは困難であり、むしろ、あるべき標準的取引価格を求めようとする独立企業間価格の算定に当たっては、特段の事情がない限り、融資取引の代表例である金融機関による貸付を基準とすることにも十分な合理性がある(下線:筆者)」として、その主張を退けている。

つまり、当該複合要素から合理性の判断がなされており、このことから、「取引内容に適合」し、かつ、「基本三法の考え方から乖離しない場合」として、「独立価格比準法(基本三法)に準ずる方法」の採用が認められているのである。

 

【実在性に関する問題点③:仮想取引を比較対象取引とすることは租税法律主義(納税者の予見可能性)の観点から適正といえるか】

X社は、「準ずる方法」と同等の方法といった抽象的で不明確な条文のみに基づき、本件のような課税処分を行うこと自体が、比較可能性や比較対象取引の実在性その他本来の独立価格比準法において必要とされる要件から逸脱して、納税者の予見可能性を害し、租税法律主義に反し違法であると主張する。

この点に関し、判旨は、「措置法66条の4第2項は、国外関連取引について、独立企業間価格の算定方法を規定するものであり、まず基本的な取引である棚卸資産の販売又は購入について、基本三法の内容を具体的に規定した上で、基本三法を用いることができない場合には、これに「準ずる方法」として、基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定め、次に棚卸資産の販売又は購入以外の取引について、以上の各方法と「同等の方法」として、それぞれの取引の類型に応じて、基本三法及びこれに「準ずる方法」と同様の方法を用いるべきことを定めるものである。以上の規定内容は、その文言から明確に読み取ることができ、租税法律主義(憲法84条)に違反する抽象的で不明確な条文ということはできない。(下線:筆者)」として、その上で、X社の主張の実質は、「措置法66条の4第2項2号ロの規定の解釈適用の誤りをいうものであり、本件各更正処分において、同規定の解釈適用の誤りが認められないことはこれまで述べてきたとおりであるから、原告の主張は理由がない」としてX社の主張を排斥した。

特に、「基本三法に準ずる方法」は、一般に不明確な概念と思われ、納税者の予見可能性を害するおそれがあると考えられるため、その点において、租税法律主義に立ち返り検討を要することは必要である。「基本三法に準ずる方法」が、「取引内容に適合」し、かつ、「基本三法の考え方から乖離しない場合」において認められるものであることは、前述するものであるが、この租税法律主義における納税者の予見可能性という観点からは、「基本三法の考え方から乖離しない場合」の解釈及び適用を特に慎重に行うべきであると考えている。

この点に関しては、弁護士・公認会計士の北村導人氏が執筆した『移転価格課税に関する裁判例の分析と実務上の留意点(中)』 にて、「措置法66条4第2項2号ロは、「準ずる方法」として、基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法を用いることができることを定めており、その規定内容は明らかであるとするが、少なくとも法の解釈・適用の場面においては、納税者の法的安定性・予測可能性の観点から、「基本三法の考え方から乖離しない限度で合理的な方法」の解釈・適用を特に慎重に行うべきである」と述べている。

 

【「利息取引事件/東京地裁判決」の検証】

利息取引事件における主要な論点は、アドビ事件と同様に「基本三法に準ずる方法」の適用要件である、修正課税要件に十分な合理性があるか否かということになる。この部分については、既に【問題点①】 情報の入手が適正にできる状況にあったか、及び【問題点②】 仮想取引のような実在しない取引を比較対象取引とすることに合理性はあるかの内容で述べているが、以下において修正課税要件の合理性の観点から改めて確認する。

 

修正課税要件の合理性】

利息取引事件における当該国外関連取引においては、基本三法の考え方の枠内において、比較可能な取引が存在しないという側面がある(アドビ事件は、再販売価格基準法の考え方の枠内であったため、類似性という面において、比較可能取引が存在しなかったのに対し、本件利息取引では、独立価格比準法の考え方の枠内であるため実在性という面において、比較可能取引が存在しないこととなる)。

このようなに、比較対象となる取引が存在しない場合においても、「取引内容に適合し」、かつ、「基本三法の考え方から乖離しない場合」において、基本三法の要件事実を修正することができ、「基本三法に準ずる方法」の適用が可能なものとなる。

独立価格比準法の課税要件は、①国外関連取引が存在し、かつ、②同種の資産及び同様の状況下である比較対象取引が存在することであるが、これを利息取引事件における仮想取引と比較して確認する。

 

独立価格比準法の課税要件 修正される利息取引
①国外関連取引の存在

②(同種の資産及び同様の状況下である)同種の比較対象取引の存在

①国外関連取引の存在

②比較対象取引が存在しない

→実在性の検証により、取引内容に適合するとして、仮想取引をもって、「同種の比較対象取引の存在」という課税要件に近接させる

③同種の比較対象取引の存在

→原価基準法の適用可能性の検証により、独立価格比準法の考え方から乖離する場合には、「同種の比較対象取引の存在」という課税要件から乖離させる

 

この表の「修正される利息取引」の内容に対して、「取引内容に適合し」、かつ、「基本三法の考え方から乖離しない」合理的な方法の適用要件を満たせば、基本三法の要件事実を修正することができ、「独立価格比準法に準ずる方法」が適用することができるのである。そして、これを達成するためのプロセスの1つが、実在性の検証(取引内容に適合するといえるかの検証)となり、次表の具体的事実に則って検証することになる。

 

【取引内容に適合するといえるかの判断】

具体的事実
①本件国外関連取引が円から交換したタイバーツによる長期間の貸付であること

②タイバーツについて国際的に金融市場が存在し、金融機関が同市場において円からタイバーツを短期変動金利で調達するとともに、①と同一期間の金利スワップ取引を行うに当たってのコストを算定できること

 

この具体的事実による実在性の検証によって、「比較対象取引が存在しない場合」から、独立価格比準法の課税要件である「比較対象取引が存在する場合」に近接させていくのであるが、本件では、判旨において、「取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような「仮想取引」を比較対象取引として独立企業間価格の算定を行うことも、同項1号ニの「準ずる方法」及び同項2号ロのこれと「同等の方法」として許容する趣旨と解するのが相当である。」として明確にされている。

 

また、もう1つのプロセスである基本三法の考え方から乖離しないといえるかの検証について、本件、利息取引においては、X社は手持ち資金での運用であり当該運用には調達コストがかからない(原価基準法への適合により、独立価格比準法の考え方から乖離する)と主張する。こちらも判旨において、「一般企業の「手持資金」なるものも、様々なコストをかけて得られたものであることが通常であるし、その運用に当たっても、金融機関による融資に準じた融資を含めた様々な運用方法があり得るのであるから、手持資金の貸付であるから調達コストを考慮する必要はないと断定することは困難であり、むしろ、あるべき標準的取引価格を求めようとする独立企業間価格の算定に当たっては、特段の事情がない限り、融資取引の代表例である金融機関による貸付を基準とすることにも十分な合理性がある。」として、「取引内容の適合性」と併せて明確にされている。

 

利息取引事件の最終評価】

上記により、筆者の利息取引事件の評価は、「判決は適正」であったと考えている。

つまり、利息取引事件については、「基本三法に準ずる方法」の適用要件である、「取引内容に適合すること」と、「基本三法の考え方に乖離しないこと」の両面から、その合理性について適正に検証がされていることが認められるのである。

 

いかがでしたでしょうか。難しいですよね・・・。私も理解するのにかなりの時間を要しました。

実際の親子ローン利率の決定は慎重に行って頂く必要がありますが、問題は過去に巻いた契約に係る親子ローン利率の評価です。どのように適法の範囲に落とし込んで結論付けていくか。弊社では、貴社の実態に合わせてお手伝いしておりますので、お気軽にご相談ください。

 

ちょっと追記

今後、利率の決定に関しては、クレジット(信用)スコア等の客観的なデータを利用して算出することが一般化することとなります。

信用力がある会社は同じランクの信用力のある会社が利用している利息水準で取引を行うということです。外部の銀行から資金調達をする場合も、市場金利等の水準+自社の信用力(スプレッド)によって利率決定されるので、金融を業としていない一般的な会社においても、信用力によって評価することが明確に求められています。

この部分においては、いまだデータベース等が整備されておらず(かつ、高額であり)、具体的なクレジットスコア抽出等のタイミングを見計らっている会社様も多いと思います。ただし、情報は今のうちに集めておく必要があり、実際に困ったときには「時すでに遅し」となっている可能性もありますので、ご注意ください!

片瀬

 

【筆者紹介】

JGA税理士法人

代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる。