いつも当コラムをお読みいただきありがとうございます。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。
前回のコラム(MS法人設立スキーム~売上はいくら計上するべきなのか~)で書きましたが、MS法人の売上は最低でも1,250万円程度は欲しいところ・・・
MS法人ビジネスで何が辛いかというと最初の1,250万円の売上を作ることです。以下の代表的なMS法人業務で1,250万円以上の売上を作るイメージをしてみてください。
【MS法人で行う業務】
①不動産(駐車場)の賃貸・管理
②医療材料/機器の販売や賃貸
③医療事務(保険請求事務含む)/経理事務等の管理部門の受託
④医療DX化事務の受託
⑤予約サイト、ウェブサイト、ランディングページ作成と関連業務の受託
⑥介護サービスの受託
⑦院内売店、院内給食や院内清掃の受託
⑧人材派遣サービス
⑨経営コンサルティング
どうでしょうか?
どのようなイメージをしても1,250万円の売上を作ることは難しかったのではないかと思います。
売上=単価×数量
この算式は売上を計算する際に利用する最も基本的な算式となりますが、これに実際の金額を当てはめて考えてみましょう。
1,250万円=単価×数量
どうでしょうか?まだ少し見えづらいですか?
それでは、次にMS法人業務のボトルネックをお伝えします。
【ボトルネック①】
取引先が母体となるクリニックとの取引のみになること |
つまり「単価×数量」の数量が固定されてしまうのです。つまりMS法人の売上を作るためにいじれるものが「単価」だけになる・・・、これがMS法人の最大の罠となります。
例えば、(MS法人からクリニックに)不動産の賃貸を行う際に、近隣の家賃相場の5倍などの金額を設定してしまうのです。利益を移転するために金額をいじるのです。
所得の分散のために、個人クリニックからMS法人へ利益を移転した方が納める税金は低くなりますが、価格を操作して売上を作ることを税務署はもちろん認めません。
【ボトルネック②】
数量を増やすために、MS法人の行う業務の種類を増やす。 |
例えば、院内清掃だけでは、クリニックが1か所と固定されているため、売上を大きく作ることができません。何とか売上貢献したいと、“数量”を増やすために考えることが、「そうだ!管理部門の受託サービスもやろう!」と業務の幅(院内清掃の1種類から管理部門の受託サービスの2種類目と幅)を広げてしまうのです。
これは悲惨です。時間だけがかかって効率が悪く、まとまった金額を動かすこともできません(労働集約型の業務でなければ可能性はありますが・・・)。
1,250万円=単価×数量
この計算式の数量が固定されるし、単価も動かせない・・・八方塞がりにみえてしまいます・・・・。
でも可能性もおおいにあるのです。再度、「単価」と「数量」について考えてみましょう。
【単価の作り方】
税務署は同様のビジネスを行っている会社の見積価格を取るように指導してきます。もちろん汎用品であればカタログ価格は市場価値とされる可能性がありますが、商品によって価格の考え方は様々です。ユニークな商品又はサービスであれば、同様のビジネスを行っている会社は存在しないため“見積価格”など本来はありません。まずは商品・サービスの付加価値をどのように高めていくかの検討が必要です(そして、税務調査や査察で、汎用品の販売(汎用サービスの提供)ではなく、こんなにもユニークなものであると主張することが重要です)。
また、ここのポイントとしては、既存のサプライチェーンの中にMS法人を埋め込むとビジネスとして成立させることが難しいということです。この辺りも過去のコラムで記載していますので、是非ご確認ください。
【数量の作り方】
数量の作り方のイメージは簡単です。自分のクリニック以外にビジネスの幅を広げるのです。第三者との取引価格を作れば、税務署から同業他社の見積価格を取るように指導されることはありません。その第三者との取引価格こそが市場価値となるのです。
ここのポイントは、あくまでもクリニック向けのサービスとして確立し、自クリニックだけではなく、他クリニックまで取れるようなサービス展開を考えることにあります。
例えば、目利きができるドクターであれば医療機器の販売を友人のクリニックにしても良いでしょう。また、他のクリニックに(基本的に行うことが同じである)クリニックの管理部門を統合して固定費を下げるような提案を行うこともできるかもしれません。
クリニックの困りごとはクリニックにしか分からないし、それはどのクリニックでも悩んでいること、その発想でのMS法人設立が最善です。イメージとしては、ドクターである皆様がビジネスのたたき台を作って、我々がそれを精査して作りこんでいくことになるかと思います。
するとこのMS法人は「ビジネス」となります。税務署もMS法人を「節税対策」として利用することは認めませんが、「ビジネス」として利用することは絶対に否定されないので、独立したビジネスとして成立するかを観点としてMS法人の組成をご検討ください。
今回のコラムは以上となります。いかがでしたでしょうか。MS法人には未だに大きな節税効果はあるのですが、ストーリーの組み方を間違えると予期せぬトラブルに見舞われます。どのような観点で組成していくかの参考にしてもらえれば幸いです。
次は相続について!MS法人の活用によって、ドクターの相続はどう変わってくるのかを検討してみたいと考えています。次回もお楽しみに!
※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。