皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。
今まで全5回の「医療法人化のシミュレーションシリーズ」をご拝読いただきまして誠にありがとうございます。「医療法人化のシミュレーションシリーズ」では、節税目的での医療法人設立は近年デメリットが多くなっており、本当に医療法人化を行うべきなのか、ドクターの皆様の意思決定に資する内容で執筆しました。
今回からの「MS法人設立への道シリーズ」は、節税のために医療法人を設立するのはリスクが高いと感じたドクターの皆様を対象として、MS法人の設立について詳細に迫ってまいります。
第1回目の今回は『MS法人を設立する理由』についてです。
MS法人を設立する理由について、「医療法人化シミュレーションシリーズ①~⑤」を読んでいただいた方は、「えっ、節税目的ではないの?」と思う方も多いと思います。当シリーズでは少し期待を持たせる書き方をしてしまい申し訳ありませんが、MS法人での節税も医療法人と同様に過去の産物となった様相が強いです。
要因の1つは、「消費税の増税」です。
簡易課税制度を利用しても、クリニックが非課税事業者(保険診療:医療は消費の概念に馴染まない)である限り、消費税分だけ強制的に負担を強いられることとなるため、その時点で節税効果はありません。
次に、クリニックにおいて、課税事業である自由診療を始めれば、そこで発生した消費税(受け取った消費税)から控除できるのでは?という考えもあるかと思います。ただし、控除できる消費税の額は課税売上割合に対応する部分のみ(例えば、9千万円の非課税売上、1千万円の課税売上であれば、消費税控除は課税売上のパーセンテージに対応した10%のみ)のため、これでも節税効果を作るのは至難の業です。
そのため元々に自分たち(クリニック内)で対応できていた業務を外出しすると、消費税分だけ追加のキャッシュアウトが出てしまい本末転倒です。簡単にいうと、常に10%高い金額でサービス提供を受けるということですね。
2つ目の要因は、「税務調査や自治体調査」です。
この部分に関してはH29年に一部施行された改正医療法において、医療法人に対して「関連会社(MS法人含む)に対する報告義務」が課され、医療業界全体においてガバナンスの強化がなされています。そのため、自治体調査はもちろん税務調査においても、節税目的によるMS法人の利用を認めることはなく、透明性の確保が必須条件となっているのです。
そのためMS法人での節税も過去の産物になった様相が強いと前述しましたが・・・
個人的には、MS法人は廃れていないと考えています。単純な節税目的のMS法人が廃れてしまったのであってビジネスとしてのMS法人の設立は廃れてはいません。
そしてビジネスを行った結果として、多大な節税効果を享受します。
これはどういうことでしょうか。分かりやすく解説するため「医療消耗品・医療機器の仕入販売のMS法人を設立」した場合を考えてみましょう。
【従来のサプライチェーン】
クリニック ← サプライヤー ← メーカー
【検討されるサプライチェーン】
① クリニック ← MS法人 ← サプライヤー ← メーカー
② クリニック ← MS法人 ← メーカー
③ クリニック ← MS法人(メーカー)
この場合に①は認められない形だということが分かりますか?
通常のビジネスを考えたときには、①の場合ではMS法人がいらない(利益を薄くのばすだけの存在)なので、価格を第三者価格に合わせていたとしても「MS法人の透明性の確保」を鑑みた場合に、当該スキームは認められない可能性が高いのです。
では②のスキームは認められるのでしょうか?これも認められない可能性がそれなりにあるように思います。そもそもビジネスとして成り立たないように思いますが・・・、それはなぜでしょうか?
世の中には「ボリュームディスカウント」というものがあり、MS法人の販売先がクリニックだけであればロット数が限られるため、多くのクリニックを相手に大量購入をしている一般のサプライヤーに、価格で勝負にならないのです。
また、大量購入できないのでMS法人からクリニックへの販売価格が相対的に上がることを許容し、かつ、クリニック側で「○○ドクターが監修」と銘をうって高額で販売したとします。いわゆるブランディング戦略であり、ビジネスとして成り立つこの場合においても、MS法人からクリニックへの売価が第三者価格より高いとして指摘される可能性が高いのです。
結論としては、複数のクリニックに対して(ボリュームディスカウントをある程度享受しながら)販売するか、自クリニックが医療消耗品や医療機器の開発に関わり「こだわりの一品」を販売するかが、MS法人が認められる場合と考えられます。
【結論】
必要なことはビジネスの組成です。
ドクターという立場上、参入障壁のかなり高いビジネスを組成できるため、一般の方よりもスタート地点はだいぶ前にいますが、しっかりとビジネスを作りこまない(ストーリーを作りこまない)で、節税目的において設立したMS法人の存在は認められないでしょう。
個人的に、ここの大きなポイントは、ビジネスとして成立していることを証明するために、第三者に対するサプライチェーンを作ることと考えています。
一度ビジネスができ、認められたMS法人は節税効果もかなり強いです。特に大きく効果があるものは、物が移動するパターン(反対にサービス提供は規模感を出すのが難しい)ですので、是非参考にしてビジネスを作りこんでみてください。社会的に意義のある(親族内で完結するようなものではない)ビジネスを作り、上手にクリニックの収益を分散させることが大切です。
ちなみにビジネスを作ることを提案されない(節税を目的とした)MS法人の設立コンサルは、少し注意した方が良いかもしれません。時代的にはMS法人を設立しにくくなっていることは間違いないので。※特に不動産投資のためのMS法人はダメ絶対!
※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。