MS法人を活用したドクターの相続対策

いつも当コラムをお読みいただきありがとうございます。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。

今回は、ドクターの相続についてMS法人の利用を具体的に見ていきましょう。

 

【ドクターの相続(外観)】

①お子様がドクター(予定)の場合:医療法人が相続で有利

②お子様がドクター以外の場合:MS法人が相続で有利

 

これが前提ですので、まずはこちらのイメージを持ってください。

こちらのうち①については、コラム「医療法人化への道」シリーズにて、別途お伝えしようと思っていますので、今日はMS法人の設立でどのように相続を有利にすることができるかの確認となります。

 

以前のセミナー・コラム等でもお伝えしていますが、日本における節税の考え方としては、次の2つの考え方があります。

 

【節税の考え方】

時間軸による方法

所得分散による方法

 

①の「時間軸による方法」については、費用を先に立てて、収入を後に立てるということにより、当期の所得金額をなるべく小さくする方法です。保険などが代表的な節税商品となります。

②の「所得分散による方法」については、例えば、所得税の最高税率は住民税を合わせて55%のところ、法人化を行って当該税率を約33%にするという方法です。所得を分散することによって、超過累進課税(所得が多いほど税金が重くなる制度)の適用税率が軽くなるという効果もあります。

 

【相続税の税率】

相続税の税額も超過累進課税が採用されています。

取得金額(相続分) 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

 

【相続税計算における相続財産の評価時点】

あくまでも相続税の計算根拠となる相続財産の評価は、相続時(被相続人の死亡時)とされています。

※ここは、遺産分割とごっちゃになるところですが、税額計算は相続時と認識してもらえればと思います。

 

【相続時に節税を考えられるか】

相続時の財産評価の方法によって、相続税を安くできる可能性はもちろんあります。ただ、これには限度があります。多くの相続の場合に、被相続人は自分が死亡することを想定していませんので、財産評価によって相続税を安くできるかという問い合わせは、相続人(配偶者・子供たち)からの依頼です。

被相続人が子供たちに最高効率での財産分与を考えているのであれば、相続時には財産が0であることが望ましいのです(相続財産はドクターである個人の課税済所得の再分配となるため。つまり2回税金が取られるため⇒1回にすることが望ましい)。

 

【最高効率の財産分与】

相続財産の考え方:個人の生活に必要なキャッシュを賄った結果 ⇒ 相続財産が残った

 

この考え方が一番良いのです。つまり、可能であれば個人で生活のための財産以外は持たない方が(対相続税では)賢明です。つまり、相続時に一時的に課税させるのではなく、生前に財産(に加算される所得)を分散しておくことが良いのです(配偶者・子供たちの給与所得として、所得税の対象にさせること)。このためには、機能の分類とスケジューリングがとても重要です。

※厳密には「財産の分散」ではなく、あくまでも「所得の分散」です。課税済利益が財産となりますが、財産のカテゴリーに含まれる前に、換言すれば個人所得税が課される前に所得を分散するのです。今回のコラムは相続対策のため「財産の分散」と表現していますが、財産になる前に所得を分散させることが重要です。

 

【機能の分類】

もちろん節税目的の何某は税務署も認めていません。「財産の分散」において、重要なのは合理性と客観性です。ビジネスとして分散を行うことが合理的で客観的であれば、税務署はビジネスを否定することはできません。つまり、なぜそれを行うのか、外部第三者もそれを行うのかなど、ビジネスとして成立させることこそ重要なのです。

そのために必要なことが、クリニックやMS法人が遂行する“機能の分類”です。ビジネスとしてお金をもらうということは、“機能を遂行すること”か、“リスクを負担すること”の何れかによって成立します。

 

【MS法人を利用】

クリニックの機能の一部を「MS法人」に移譲して、当該機能の遂行により報酬をもらう。また、この機能の遂行を配偶者・子供たちが行っているために、配偶者・子供たちに対して報酬を支払っているというストーリーです。

前述の子供たちがドクターであれば「医療法人設立が有利」というのは、医療法人はその持分の相続に対して相続税が課されないためですが、子供たちがドクターでなければ相続財産すべてに相続税が課されてしまうので、MS法人を利用して財産の分散を行うのです。

 

【税額の検証】

所得税の最高税率:55%(住民税含む)

相続税の最高税率:55%

子供に残せる財産:20.25%(45%×45%)

 

つまり、所得額・財産額のどちらも最高税率に達するドクターについて、単純計算では、稼いだお金の20.25%しか配偶者・子供たちに残せないのです(2回55%の税金が課税されるため)。

 

そのためMS法人を利用して配偶者・子供たちに財産を分配していくことを検討します。一時では難しい財産の分配も、長い期間をかけてスケジューリングすれば可能となりますし、時間をかけての節税以外は一時的なもので大きな効果は得られません。

 

【MS法人の株価】

MS法人で(過去から)利益を計上している場合には、MS法人の株価(純資産が膨らんでいることを想定)も相続財産に含まれます。完成されて利益が大きく積みあがった段階で配偶者・子供たちに引き継いだら、その時点の価額(時価評価)で贈与税・相続税が課されます。そのため、時価が膨らむ前の設立の時点からスケジューリングすることが重要です。

また、子供たちに引き継ぐにあたり、ここでも重要なことがあります。

未成年者もMS法人の株主になれるけれど、彼らが稼いだお金ではないので、お金の出所については、よくよく注意しなければならないのです(定款認証に印鑑証明が必要なので、基本的には15歳以上)。実務的には、少額出資でMS法人設立して、株価が低いうちに贈与が良いと考えています。

 

【MS法人の役員】

子供たちを役員に入れてMS法人の運営を考えていくべきですが、日本の法律上、取締役会設置会社については役員登記に印鑑証明が必要になるため、基本的に役員になれるのは、15歳以上の年齢の子供となります。

 

【検討事項】

基本的には15歳以上の子供たちと記載しましたが、これを引き下げられる可能性もあります。

株主:公証役場との相談(親権者の印鑑証明で対応可能な場合あり)

役員:取締役設置会社の検討(ただし、業務執行能力や意思決定能力は問われるため10歳以下は確実に不可)

※ストーリーの検討としては、10歳以下の段階で役員登記に挑戦し、意思決定能力の開花と共に役員登記を行うことを考える、このような検討になるかと。

 

【まとめ】

子供が成人した後に、上記の相続対策をしたとしても残せる財産は、その後に発生した所得の範囲に限られます。つまり過去にストックしたものについては、既に相続財産のカテゴリーに乗ってしまっているのです。そのため、今回のコラムでは、財産の分散と記載していますが、その実「所得の分散」と同義であり、早ければ早いほど効果が高いのです。

※あくまでも「フロー」を分散できるのであって、(非課税枠を除き)「ストック」を分散できわけではありません。

 

今回のコラムは以上となります。いかがでしたでしょうか。MS法人は所得分散による所得税の節税効果だけではなく、相続税の節税効果も内包しているのが分かったと思います。皆様のライフプランの参考としてもらえれば幸いです。

 

※当記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。

 【MS法人設立への道シリーズ】 ~MS法人を活用したドクターの相続対策~