皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。
海外子会社管理に悩まれている多くの会社において「コミュニケーションエラー」が起こっていることは、前回までのコラムに記載しましたが、それではなぜ「コミュニケーションエラー」が起こってしまうのか。今回のコラムでは、海外展開の歴史が浅い会社に焦点を当てて確認してみることとします。
日本本社からの海外展開初期の段階、又は、海外子会社の戦略的なウエイトが低い段階においては、一般的に「海外事業部管理方式」というスキームが用いられます。
簡単に図示すると・・・
このように事業部門の1つとして、本社に「海外事業部」を置き、海外ビジネスを海外事業部にて一元管理するのです。これが「海外事業部管理方式」です。海外子会社はこの海外事業部の統治下におかれ管理されます。
【コミュニケーションエラーの内容】
この「海外事業部管理方式」において、どのようなコミュニケーションエラーが起きるのでしょうか。
管理部門 VS 事業部門
この場合には、このコミュニケーションエラーです。海外事業部の設置によって、リソースの有効活用(特に海外人材の集中管理)をすることはできますが、専門性については低い水準にて頭打ちになることが多い実情があります。
この海外事業部は、どちらかというと管理部門(コーポレート部門)となりますがコーポレート機能についても深く精通しないことが多く、かつ、海外子会社で行われるビジネスの内容に深くタッチできないことが多い。つまり、いずれの側面からも専門性が低い水準で頭打ちとなってしまうという現実があるのです。
もちろん、この部分は海外事業部の自力に左右されます。実力がある海外事業部では専門性が高い水準で維持されています。それでもなお、上手くいかないことの多いのが「海外事業部管理方式」と言えると個人的に思っています。
それは・・・、海外事業部において「バランス機能」を発揮することができないという致命的な問題点があるためです。換言すると、海外事業部においては「最終的な意思決定が難しい」とも言えるでしょう。
通常の組織運営において、商売は「事業部門」が行い、組織運営は「コーポレート部門」が行います。最終的な意思決定は、これらの事業部門が行うため、海外事業部に責任の所在を置くことが難しく、リスクの顕在化をおそれるあまり、リスクへの対応が「回避※」のみとなってしまうのです。
※通常リスクへの対応は、①受容、②回避、③移転、④低減と4段階ありますが、これが「回避」に偏ってしまうという意味。
海外ビジネスは、「清濁を併せ吞む」というバランス感覚のもとになり立つものでありますが、そのバランス感覚を発揮できないというデメリットが「海外事業部管理方式」にはあるのです。これが最大のデメリットと言えるでしょう。
ただ、それでも「リソース(特に人材リソース)を有効活用できる」、「進出初期(ビジネスが成熟するまで)の管理ノウハウを一元管理できる」、「(その結果)各国への新規拠点設立が容易」などメリットも大きいので、進出初期や重要性が低い間には「海外事業部管理方式」が有利とされているのです。
つまり「海外事業部管理方式」にて立ち上げて、なるべく早く次のフェーズに移るための組織運営が大切だということが分かります。海外事業はスケジュールで進めていくことが重要です。
今回のコラムはここまで。
次回のコラムでは、次のフェーズである「事業部門管理方式」についてお伝えします。お楽しみに!
※海外子会社管理業務は、日本とタイと協力して行っており、当該コラムについても弊社タイ法人のWebサイトにもアップしております。
代表社員/税理士 片瀬 陽平
税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる