皆様こんにちは。税理士の片瀬です。
最近のAIの発展は凄まじく、業務の効率化はClaudeやChatGPTをはじめとするAIがほとんど行ってくれる世の中になりました。
我々も業務の中の至るところにAIを組み込んでいますし、業務改善のためにクライアントにも積極的に使ってもらっています。
今日は、このような生成AIを利用するための基礎である「プロンプトエンジニアリング」について考えてみたいと思います。
先日知り合いの社長から、今の日本株式市場の過熱感をみて「10倍株をどうやって探したらいいか」という質問を受けました。
その社長はChatGPTにいろいろと聞いているけれど、本当にChatGPTから紹介された銘柄が10倍株になるのかと疑問をもったというのです。
たとえば、次のような質問をChatGPTに投げかけていたそうです。
【社長の質問例】
「低PBRで割安な銘柄を10個抽出して」
「ROEが20%を超える企業を10個抽出して」
「AI・半導体銘柄の次にくる関連銘柄を教えて」
「AI・半導体関連銘柄で次の10倍株候補を教えて」
これらの質問が悪いわけではありません。投資調査の入口としては、むしろ自然な使い方です。
しかし、ここで考えなければならないのは、ChatGPTは質問された範囲の中で答えを作るということです。
「低PBR銘柄を教えて」と聞けば、低PBR銘柄を探します。
「ROE20%超の企業を教えて」と聞けば、ROEの高い企業を探します。
「AI・半導体関連の10倍株候補を教えて」と聞けば、AI・半導体というテーマに沿った銘柄を並べます。
ただし、それだけでは不十分です。本当に重要なのは、今の価値を見るのではなく、将来にその株が上がるかなのです。
プロンプトエンジニアリングは「質問の上手さ」ではなく「思考手順の設計」です
ChatGPTを使えば、投資候補の調査は以前よりも格段に速くなりました。
しかし、ChatGPTにいきなり銘柄名を聞くと、回答はどうしても現在人気のテーマ株や、すでに市場で知られている企業に寄りやすくなります。
特に、AI、半導体、防衛、ロボット、データセンターといったテーマは、すでに多くの投資家が注目しています。
そのため、単に、「AI・半導体関連の10倍株候補を教えてください」と聞いてしまうと、ChatGPTは既に市場で語られている情報を整理して返す可能性が高くなります。
これは便利ではありますが、10倍株候補を探すための思考としては浅くなりがちです。
10倍株候補を探すなら、最初に銘柄名を聞くのではなく、まず次のような前提を検証する必要があります。
【検証すべき前提】
なぜその産業が伸びるのか。
その成長は一時的なブームなのか、構造的な変化なのか。
その産業が普及するとき、どこで詰まるのか。
そのボトルネックを解決する企業はどこなのか。
現在の時価総額から見て、10倍化に必要な売上・利益規模は現実的なのか。
つまり、投資調査におけるプロンプトエンジニアリングとは、ChatGPTに「銘柄を答えさせる技術」ではありません。
ChatGPTに、正しい順番で考えさせる技術です。
<よくあるプロンプトの限界>
たとえば、次のようなプロンプトがあります。
AI・半導体関連銘柄で次の10倍株候補を教えてください。
一見すると、具体的な質問に見えます。しかし、この質問にはいくつもの曖昧な点があります。
まず、「AI・半導体関連」という言葉が広すぎます。
半導体製造装置、材料、検査装置、後工程、先端パッケージング、データセンター、冷却、電力、メモリ、ストレージ、エッジAI、AIソフトウェアなど、対象領域は非常に広範囲です。
次に、「関連銘柄」という言葉も曖昧です。完成品メーカーなのか。部品メーカーなのか。検査装置メーカーなのか。電源・冷却・保守を担う企業なのか。通信・データ処理・セキュリティを担う企業なのか。
どこを対象にするかによって、投資仮説は大きく変わります。
さらに、「10倍株候補」という言葉にも注意が必要です。
10倍株になるためには、単に業界が成長するだけでは足りません。
現在の時価総額から見て、10倍の時価総額が現実的に説明できる必要があります。
たとえば、現在の時価総額が500億円の企業であれば、10倍になるには時価総額5,000億円が必要です。
では、その時価総額を正当化するには、将来どれくらいの営業利益が必要なのか。
どれくらいの売上高が必要なのか。営業利益率は何%必要なのか。PERは何倍まで許容できるのか。
現在の売上高から見て、年率何%の成長が必要なのか。
ここまで分解しなければ、10倍化の仮説は検証できません。
重要なのは「最初に銘柄名を出さない」こと
投資調査において、ChatGPTを使う際にまず意識すべきことがあります。それは、最初に銘柄名を出させないことです。
最初に銘柄名が出てしまうと、その後の分析はどうしてもその銘柄を肯定する方向に進みやすくなります。
これは人間の思考にも起こります。最初に見た情報に判断が引っ張られる現象は、認知科学や行動経済学で「アンカリング」と呼ばれます。
たとえば、最初にある銘柄を「10倍株候補」として見てしまうと、その後は無意識にその銘柄の良い材料を探しやすくなります。
逆に、その銘柄にとって都合の悪い情報は軽視しやすくなります。ChatGPTを使う場合も同じです。
最初に銘柄を出させると、その後の出力は「その銘柄がなぜ有望か」を説明する文章になりやすくなります。
だからこそ、良いプロンプトでは、最初に銘柄名を出させません。
考えるべきは思考の順序です。
1. 未来の前提を置く
2. その未来で社会が解決を迫られる課題を整理する
3. その課題から脚光を浴びる産業を考える
4. その産業が普及するときに発生するボトルネックを探す
5. ボトルネックを解決する製品・技術・サービスを定義する
6. そこで初めて、該当する企業を探す
7. 財務・バリュエーション・リスクを確認する
8. 最後に候補企業を絞り込む
この順番をプロンプトに組み込むことで、ChatGPTの回答は「思いつきの銘柄リスト」から「仮説検証型の調査レポート」に近づきます。
「脚光を浴びる産業」と「本当に不足するもの」は違います。投資テーマを考えるとき、多くの人は「これから脚光を浴びる産業」に注目します。
AI。半導体。ロボット。ドローン。防衛。データセンター。宇宙。バイオ。
もちろん、これらの産業を見ることは重要です。しかし、10倍株候補を探すなら、もう一段深く考える必要があります。
それは、その産業が本当に普及するとき、何が足りなくなるのかという視点です。
たとえば、AIデータセンターが増えるとします。このとき、注目されやすいのはAI半導体やサーバーです。
しかし、実際に普及が進むと、電力、冷却、排熱、土地、水、騒音、自治体許認可、電源設備、保守、通信、ストレージなどがボトルネックになる可能性があります。
ロボットが普及する場合も同じで、完成品メーカーだけでなく、センサー、モーター、減速機、エンコーダ、制御ソフト、画像処理、エッジAI、安全認証、保守部品などが必要になります。
つまり、脚光を浴びる産業そのものと、実際に不足する部材・技術・サービスは必ずしも一致しません。
ここに、プロンプトエンジニアリングの重要なポイントがあります。
ChatGPTに、「AI関連の10倍株候補を教えてください。」と聞くのではありません。
「AIデータセンターが2030年から2035年に普及する場合、電力、冷却、データ処理、通信、保守のどこがボトルネックになり、そのボトルネックを解決する日本上場企業にはどのようなタイプがあるか。」このように聞くべきなのです。
このように問いを設計すると、ChatGPTは表面的なテーマ株ではなく、テーマの裏側にある実需や制約条件に目を向けやすくなります。
10倍株候補は「夢」ではなく「逆算」で考える
10倍株候補という言葉は魅力的です。しかし、投資調査では「将来有望そう」という感覚だけでは不十分です。
10倍化を考えるなら、必ず数値で逆算する必要があります(ここは経営と同じで、非常に重要です)。
たとえば、次のように考えます。
現在の時価総額が300億円であれば、10倍時の時価総額は3,000億円です。
では、3,000億円の時価総額を正当化するには、どれくらいの営業利益が必要でしょうか。
仮に、将来PERを25倍、税引後換算係数を0.7と置くと、必要な営業利益は次のように逆算できます。
3,000億円 ÷ 25倍 ÷ 0.7 = 約171億円
つまり、その会社が将来171億円程度の営業利益を出せる可能性があるかを考える必要があります。
さらに、営業利益率を15%と仮定するなら、必要売上高は次のようになります。
171億円 ÷ 15% = 約1,140億円
現在の売上高が300億円であれば、10年で1,140億円まで伸ばす必要があります。
この場合、必要な売上成長率は年率約14%です。
ここまで分解すると、その10倍株仮説が現実的なのか、かなり見えやすくなります。
経営でも、ここが重要で中期事業計画から逆算で単年度予算を作成していくこと求められます(定量的に、かつ、逆算で)。
一般的な質問を、実務的なプロンプトに変える
では、一般的な個人投資家の質問を、どのように改善すればよいのでしょうか。
たとえば、「低PBRで割安な銘柄を10個抽出して。」という質問があります。
この質問を改善するなら、次のようになります。
日本上場株を対象に、低PBR銘柄を単純に抽出するのではなく、PBRが低い理由を、資本効率の低さ、赤字リスク、政策保有株、事業縮小、資産価値の過小評価、市場の見落としに分解してください。
そのうえで、ROE改善、自己株買い、事業再編、資産売却、配当方針変更などによりPBR改善が起こり得る企業タイプを整理し、最後に候補企業を提示してください。
このようにすると、単なる低PBRランキングではなく、「なぜ市場が低く評価しているのか」「その評価が変わる可能性はあるのか」という視点が入ります。
次に、「AI・半導体銘柄の次にくる銘柄を教えて。」という質問です。
この場合は、「次にくる」という言葉を分解する必要があります。
価格が上がる銘柄を聞いているのか。需要が増える製品を聞いているのか。政策支援が向かう領域を聞いているのか。市場がまだ十分に織り込んでいない周辺企業を聞いているのか。
改善するなら、次のようになります。
AI・半導体産業が2030年以降も拡大する場合、普及過程で不足する電力、冷却、後工程、検査、実装、材料、保守、データ処理、通信、セキュリティのボトルネックを整理してください。
そのうえで、完成品メーカーではなく、ボトルネックを解消する関連製品・サービスを持つ日本上場企業タイプを抽出してください。
このように、良いプロンプトは、ChatGPTに答えを急がせません。
まず、考えるべき前提を並べさせます。次に、評価軸を作らせます。そのうえで、候補企業を出させます。
プロンプトは「命令文」ではなく「思考のチェックリスト」ととらえるべきです。
良いプロンプトは、単にChatGPTに作業を依頼する文章ではありません。
むしろ、人間が見落としやすい論点を強制的に確認させるチェックリストです。
投資調査であれば、少なくとも次のような項目を入れるべきです。
【チェック項目】
・リサーチ基準日
・使用できた情報源
・数値の確認時点
・対象市場
・除外条件
・評価基準
・スコアリング方法
・財務安全性
・バリュエーション
・実需の確認
・反証チェック
・未確認事項
・次に読むべき資料
・四半期ごとに監視するKPI
特に重要なのは、「未確認事項」を明示させることです。
ChatGPTは、もっともらしい文章を作ることが得意です。
そのため、数値や事実関係が曖昧なままでも、自然な文章で出力してしまうことがあります。
だからこそ、確認できない情報は推測で埋めず、「未確認」「要最新確認」と表示させるルールが必要です。
※このようなチェック項目は、フレームワークさえ整えればClaude等で簡単に仕組み化・自動化できます。
ChatGPTは投資判断の代行者ではなく、調査設計の補助者である
ここで誤解してはいけないのは、ChatGPTが投資判断をしてくれるわけではないということです。ChatGPTの出力は、あくまで調査の出発点です。
特に、株価、時価総額、PER、PBR、業績予想、受注残、決算資料、適時開示などは、必ず最新情報を確認する必要があります。
ChatGPTが出した候補企業については、最低限、次の資料を確認すべきです。
【必要資料】
決算短信
有価証券報告書
決算説明資料
中期経営計画
適時開示
セグメント情報
受注残や設備投資の動向
主要顧客や海外売上比率
中国依存度
財務安全性
希薄化リスク
株価指標の水準
ChatGPTの役割は、これらの資料を読む前に、どの論点を優先して確認すべきかを整理することです。
つまり、ChatGPTは「投資判断を代行する道具」ではありません。調査の順番を設計する道具です。
今回、知り合いの社長から受けた質問は、単に「10倍株を教えてほしい」というものではありません。
本質的には、「ChatGPTから出てきた銘柄を、どこまで信用してよいのか」、「ChatGPTを投資調査に使うなら、どのように質問すべきなのか」という問いでした。
その答えは、いきなり銘柄を聞かないことです。
まず未来の前提を置く⇒その未来で社会が解決を迫られる課題を整理する⇒脚光を浴びる産業を考える⇒その産業が普及するときのボトルネックを探す⇒そのボトルネックを解決する企業を探す⇒最後に、財務・バリュエーション・リスク・未確認事項を確認する
この順番をプロンプトに組み込むことで、ChatGPTの出力は大きく変わります。
これが、投資調査におけるプロンプトエンジニアリングの本質です。ChatGPTは、問いが浅ければ浅い答えを返します。
しかし、問いの構造を設計すれば、人間の思考を整理し、調査の質を高める強力な補助者になります。
今後、個人投資家にとって重要になるのは、ChatGPTに「答えを聞く力」ではありません。
ChatGPTに、正しい順番で考えさせる力です。
今回のコラムでは、先日の社長からの質問を例にして、プロンプトエンジニアリングについてわかりやすくまとめてみました。
これは経営でも同じです。
「売上を伸ばすにはどうすればよいか」
「利益率を改善するにはどうすればよいか」
「人材を採用するにはどうすればよいか」
「新規事業を成功させるにはどうすればよいか」
このような問いをそのまま投げかけるだけでは、答えはどうしても一般論になりがちです。
大切なのは、「社長の想い」です。「将来の会社の設計」です
社長は、会社を将来どのような姿にしたいのか。どのようなお客様に、どのような価値を届けたいのか。社員にどのような働き方をしてほしいのか。
地域や業界の中で、どのような存在でありたいのか。5年後、10年後に、どのような会社になっていたいのか。
この想いが曖昧なままでは、ChatGPTにどれだけ上手に質問しても、出てくる答えは表面的なものになってしまいます。
逆に、社長の想いが明確であれば、問いは自然と深くなります。
単に「売上を伸ばす方法を教えて」ではなく、「自社が大切にしている顧客との関係性を守りながら、5年後に売上を2倍にするには、どの事業を伸ばし、どの業務を見直すべきか」という問いになります。
単に「人材を採用する方法を教えて」ではなく、「社長が目指す会社の未来に共感してくれる人材を採用するには、どのような採用メッセージ、評価制度、働く環境を整えるべきか」という問いになります。
単に「新規事業を成功させるにはどうすればよいか」ではなく、「会社の強みを活かし、既存のお客様にさらに価値を提供しながら、10年後の柱になる事業を作るには、どこから小さく検証すべきか」という問いになります。
ChatGPTは、社長の想いそのものを作ってくれるわけではありません。
しかし、社長の想いが言葉になれば、それを実現するための選択肢、手順、論点、リスク、数字の見方を整理する強力な補助者になります。
投資調査でも、経営でも、いきなり答えを探すのではなく、まず「どこに向かいたいのか」を明確にすることが大切です。
AI時代に本当に重要なのは、AIに正解を聞く力ではありません。
社長自身の想いを起点にして、AIと一緒に考えるための問いを設計する力です。
その問いの深さが、会社の未来を変えていくのだと思います。
【筆者紹介】
JGA税理士法人
代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはアメリカに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にアメリカ移転価格税制協力会の発起人としてアメリカ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる
