海外駐在で超えるべき壁②~仕事編~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。

以前に㈱幻冬舎のゴールドオンラインにて「海外進出する企業が超えるべき「3つの壁」とは?」というタイトルで記事を執筆させてもらいました。ただ、この記事は個人的に少し消化不良で書きたいことが書けなかったなという思いがあるので、存分に羽を伸ばして当コラムを書こうと思います。

 

さて、前回の記事「海外駐在で超えるべき壁①~生活編~」はいかがでしたでしょうか。今日は第2弾「海外駐在で超えるべき壁①~仕事編~」です。引き続き、楽しんでもらえれば幸いです。

 

私がメキシコにいた2012年頃は日系企業(自動車関連)がこぞってメキシコに進出し、1からビジネスを開始しており、我々のようなコンサル会社が行うワンストップサービス(進出検討段階から進出後までのすべての管理部門業務をワンストップで1つのコンサルが行う)が育つ土台がありました。正にブルーオーシャン真っ只中!

 

私も例に漏れずメキシコでワンストップサービスを展開していました。具体的なワンストップサービスは、FS(フィジビリティスタディ)作成から始まって、現地アテンド、不動産紹介、通訳(紹介)、各方面への挨拶同行、銀行口座開設、会社設立、ビザ取得、システム導入、経理代行、人材紹介、親会社報告体制構築、年度申告といくつも業務があります。これらを一手に引き受けます。

 

特に苦しかった業務は、ビザ取得業務でした。

 

私がメキシコに赴任した当時は政権交代があった直後であり、かつ、ビザ取得のレギュレーションが変わったために現場(移民局)がとても混乱している最中でした。私のビザ取得は7ヶ月ちょっとかかりました(レギュレーションが変わる前は1か月で取得可能だったのに。1か月⇒7か月)。私自身の分はまだよかったのですが、クライアントのビザ取得代行がとても心苦しかった・・・。

 

ビザ手続きの進捗状況は、ネット上で、リアルタイムに確認することができましたので、提携先が申請を行っていないなどということはなく、ただ単に全く進捗しないという状況が数カ月間続きました。その間、お客さんには「政権交代とレギュレーション変更の影響で全く動いていないのです」と頭を下げ続け、数回は移民局に直接抗議に行っています(責任者すら出してもらえずに門前払いでしたが・・・)。

 

5ヶ月経過したころにクライアントから、「明らかにおかしいから、他のコンサルに変えて再申請する(他のコンサル会社からは2か月で取得できると言われている)」といわれてしまい、どうしようもない焦燥感にも襲われました。ちなみにこのビザ取得のゴタゴタも1年かからずに落ち着き、その後は2~3か月で取得できるようになりました。5ヶ月かかっていたクライアントのビザ取得についても別のコンサルに変えて再申請したところ2ヶ月で取得ができたそうです。

 

このように自分の力ではいかんともし難いことが海外では日常的に起こります。海外の提携先や公的機関は、とにかく納期を守りません。約束を普通に破ります(・・・・と当時の私は真剣に思っていました。海外でこの考え方に陥ると仕事したくなくなるのでヤバいのですがw)。

 

そのため外部の力を借りてサービスを提供している場合(クライアント⇔自社⇔提携先⇔公的機関の形式でサービス提供)などは、クライアントの温度感を確認しながら、スケジュールを3段階(クライアントのデッドライン、提携先のデッドライン、公的機関のデッドライン)くらいで設定する必要があります。

 

私は提携先には、クライアントのデッドラインよりかなり早い期限を設定し伝えていました。どのような手続きでも、必ず遅延するので、どの程度遅延するかも考慮に入れてスケジュールを組むのです(ただ営業段階でクライアントに当該リスクを提示すると、競合との勝負に負けます。何でも「できます・可能です」と言いきっていた方が実は売上は上がります。難しいところですが、リスクの提示は絶対に必要です⇔つまりリスク提示のないコンサルは危険です。海外コンサルのよくないところは外的要因への責任転嫁と情報の後出しと個人的には考えています)。

 

海外ビジネスにおいては、何を売りものとしているのかも明確に認識しておかなければなりません。

 

製品の機能なのか、製品の量なのか、製品の価格なのか、人なのか、時間なのか、知識なのか、サポート体制なのか、ローカル人材のコミュニケーションなのか、海外ではありとあらゆる要素が売りものとして成立します。メキシコのような日系企業においての新興国ではこれらのサービス水準のギャップですら売りものとして成立してしまうのです(ブルーオーシャンビジネスとレッドオーシャンビジネスは明確に違います。そのあたりを混合しないようにしっかりと切り分けることは重要です)。

 

現地採用であっても自身の何が売りものであるかをしっかりと認識する必要があります。現地採用の人材に求められていることの多くは、本社出向者とローカル社員のコミュニケーションの橋渡しですが、それ以外の売りものが自身にあれば現地採用から日本本社に引き抜かれることもあります。これは主に顧客獲得能力に起因することが多く、上記の自社の売りものとも密接につながります。

 

海外では外部環境のせいもあるのですが、信頼できない人が、日本人、現地人、問わずに多くいます。

 

そのため、後追いで参入した方々が、進出当初からクライアントや現地日本人に信頼されることは非常に難しいです。「海外生活の期間=海外での成功期間=その人の信頼度」なので、先に進出した方々でコミュニティが既に形成されています。後塵はガツガツ行っても、引いてもダメということが往々にして起こり得ます。この場合は、先の「人とのつながり~シェア拡大の方策~」にも記載しましたが、先人に引っ張り上げてもらうことが重要(他にも常に人の目に留まる場所に自身(又は会社・商品)などを置くことも重要)となります。

 

その国で信頼されるキーマンが紹介する会社は進出したてだろうと、実態が伴っていなかろうと拡大します。特に、数年で帰任することが確定している企業の駐在員の目的は「自分のいる間に大きな問題が起こらないこと」なので、自分の目で人を評価することをあまりしない印象があります(これは、評価ができないというニュアンスが正しくて、現地国の知識がついてどの程度信頼できる人かを評価できるようになるまで2年くらいは必要なのです)。そのため、海外において人からの紹介は、より大きな武器となります。

 

・・・・ただ、そのために(長年いるだけで信頼されてしまうので)海外では、日本人が同じ日本人に対して詐欺行為(悪意のある行為)をはたらくことが少なからずあります。困ってしまいますよね。MDとして現地に行くのであれば、いろいろなビジネスを見る目が大切です(ビジネスモデルが分かれば、人となりも分かるので。人間性をチェックすることは失礼なので、ビジネス内容での判断が最も優れた予防策です)。

 

メキシコのような新興国では、日本人の数が少ないのも相まって日本人というだけで同じ日本人に無条件に受け入れてもらえます。反対に自分自身も受け入れてしまいます。みなさんはメキシコ人と日本人が全く別のことを言っていた場合にどちらを信じますか?日本にいる時では考えもしないことですが、多くの日本人が心の中では、日本人を無条件に信じ、外国人は無条件に信じていないのだと思います。ここは色々と根深い問題をはらんでいます。

 

同じ日本人に対する悪意ももちろん問題ですが、外国人を無条件に信じていないことも問題です。

 

例えば、日本人の部下と外国人の部下が同じ提案をしてきた場合に、日本人に対しては「やってみな」と肯定し、外国人に対しては「なんで必要なの?」と否定する、日本人は無意識にこのようなジャッジをしてしまうことが多く、外国人の部下から信用されないケースが散見されます。

 

海外に何年いても日本人のこの特性はなかなか消えてくれはしないものです。私も意識しないと不公平なジャッジを行いそうになることがあります(海外で合計6年間仕事をしていてもなおです)。しっかりと「日本人が行う無意識下の判断」という特性を把握した上で、演技でも良いのでローカルスタッフを信じることが必要です。

 

サプライヤーを日系のみに絞り続けると、だんだんと利益が出なくなることは、ここ10年間の日系企業の活動をみている限り明らかであるため、ローカル企業との取引はいつか必ず必要になります。その際には、あたりまえですがローカル企業を見極めることが非常に重要です。

 

ポイントは、本社社長がオープンマインドで、ローカル企業の社長と接すること。

 

言葉ができなくても現地に赴き、顔を合わせて交渉することが重要です。誠意をもって接し、相手の様子を探るのです。ローカル企業は日本企業を金蔓と考えることも、技術だけ抜こうと考えることも、非常に多くあります。

 

ただし、こちらが腹を割って話すのであれば、向こうも信頼して話してくれることも多いのです。表面だけでは必ず足元を見られると覚悟をもって取り組んでいただければと思います(海外の方がこのあたりの線引きは強く、そのローカル社長の人が良いという以前に、どの程度まで踏み込んでビジネスをするかを最初の段階で確定しているように思います)。

 

その他、ポイントとして挙げるのであれば、「安かろう悪かろう」です。

 

新興国に進出すると、安い労働力を利用して利益を出そうと考える方が未だに多い状況があります。今からこの考えで海外に進出すると高確率で失敗します。今相対的に安いのは日本(為替、GDP成長率などあらゆる要素から)です。コストを日本で発生させ、売上を海外で発生させるスキームを考えることが重要です。

 

既に海外に進出している企業は、マネージャークラスにはしっかりと給与を支払うようにしてください。ここが入れ替わり立ち替わりでは、余計なコストばかりかかってしまいます。それこそ安かろう悪かろうです。作業員は、どのような仕組みを作ろうと入れ替わり立ち替わりなので、ここは将来的に削減する方向で仕組みづくりが必要です。

 

しっかりと良い人材を引き上げる仕組みは必要です。

 

幹部候補は必ず日本人の社長が引き上げるようにしてください(マネージャーに任せっきりにしない。自分にコミットさせる。マネージャーが辞める時にごっそりと引き抜かれます)。

 

後は(特に新興国では)、銀行との関係も非常に重要ですが、長くなってきたので、そのあたりは次回に記載することとします。

 

海外のビジネスは自分の力・考えのみで、発展させることができるので非常に楽しく、かつ、やりがいがあります。日系企業の海外進出をみていると、ギャップでのビジネスを行う会社が非常に多い。これは5年くらいの短いスパンであれば成功するのですが、長期では難しい。やはり海外ビジネスを成功させている会社は本源的な価値の追求を行っている会社です。

 

もし海外ビジネスにご興味があれば、そのビジネスが海外でどのように評価されるかなどのアドバイスもできますので、お気軽にお声がけをいただければ幸いです。

 

それでは次回のコラムもお楽しみに!!

 

【まとめ】

1.海外駐在で超えるべき壁①~生活編~

2.海外駐在で超えるべき壁②~仕事編~

3.海外駐在で超えるべき壁③~人間関係編~

 

【執筆者紹介】

JGA税理士法人

代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる