海外駐在で超えるべき壁③~人間関係編~

皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬です。

 

以前に㈱幻冬舎のゴールドオンラインにて「海外進出する企業が超えるべき「3つの壁」とは?」というタイトルで記事を執筆させてもらいました。ただ、この記事は個人的に少し消化不良で書きたいことが書けなかったなという思いがあるので、存分に羽を伸ばして当コラムを書こうと思います。

 

さて、前回・前々回の記事「海外駐在で超えるべき壁①~生活編~」及び「海外駐在で超えるべき壁②~仕事編~」はいかがでしたでしょうか。今日は第3弾の「海外駐在で超えるべき壁③~人間関係編~」です。引き続き、楽しんでもらえれば幸いです。

 

※人間関係については、以前に「人とのつながり~シェア拡大の方策~」という記事を書きましたが、今回はビジネス(特に販売戦略)に特化したポイントを記載します。

 

まずは、海外ビジネスにおいては、銀行との関係が重要です。進出している日系企業が少なければ少ないほど、銀行との距離を近くすることが可能であり、紹介をいただくことも多い実態があります。我々のような会計系のコンサル会社の“先行者利得”は銀行からの紹介と言っても過言ではありません。むしろ、大げさではなく、ブルーオーシャンであればビジネスは銀行からの紹介で完結します。

 

ただし、上記の過去コラムで記載したように、後追い参入の企業であれば銀行と懇意にすることは難しいため、自分たちの存在を銀行に必要とされるものにしなくてはなりません(競合他社が銀行と仲良くしていれば、その分野でのリプレイスは難しい。むしろ面倒をかけ完全に逆効果なので、他の分野で必要とされることが重要)。マッチングは銀行の得意とするところですので、その際に名前を出してもらえるような関係はつくらなければなりません。

 

この場合も、紹介(ある分野で信頼される人材)というテーマは引き続き意識しなければなりませんが、銀行の担当者は、他の進出日系企業の駐在員よりも製品性能や日本本社の影響力、その人物と話した印象など、より多くの情報から評価する傾向にあるので、どの分野で必要とされるかを意識しながら関係を作れば、良い結果につながることも多いです。この際には、闇雲にプッシュするよりも新製品開発タイミングや法律改正のタイミングなど、種々のタイミングがとても重要です(必要な時にかゆい所に手が届く人材にならなくてはなりません)。

 

ただし、タイのような既に日系企業の進出が多いレッドオーシャンに飛び込むと、銀行紹介を含めたプル型の営業では、ほとんどの場合に新規受注を獲得することができません(日本本社の技術力と、他社との強靭な関係性があればその限りではありません)。

 

真に必要なものはプッシュ型の営業です。

 

プッシュ営業が必要なのに、(買手である企業の)日本人駐在員はプッシュ型の営業をめちゃくちゃに嫌います。これは駐在員の方というか日本人の特性なのですが・・・。このコンフリクトをどのように解消するかが今回のテーマです。ここが戦略なのでここを念入りに考える必要があるのです。

 

基本的に、海外で新しいお客様(ポテンシャルクライアント)とお会いするのは飲み会や会合、サークルなどです。仕事と関係のないプライベート空間で新規の方と会うことがほとんどです。そしてそのような空間ではビジネスの話をしても一切響かない。なぜならその方はプライベートを楽しもうとしてそこにいるからです(ビジネス会合であっても仲の良い人との会話を楽しむためにいらしている方がほとんど)。

 

海外でのプッシュ営業の最初の一歩は「個人の認知」です。

 

以前の「人とのつながり~シェア拡大の方策~」にも書きましたが、商製品の売買のポイントは次の通りです。売れる営業マンはここに自分自身を混ぜます。

 

第1フェーズ:認知してもらう

第2フェーズ:興味・関心を持ってもらう

第3フェーズ:比較・検討してもらう

第4フェーズ:購入してもらう

 

ただし、プライベートで会っているだけでは、営業マンとしては時間の浪費です(あくまでも、こちらサイドが商品を売りたい場合のみ!仲良くなりたい場合には、かけがえのない時間です!)。プッシュ営業における「個人の認知」を間違って使っている方が非常に多い。ポイントは・・・、

 

「今度会社に遊びに行ってもいいですか?(ご挨拶に伺ってもいいですか?)」

 

これです。大切なことは、その方の「プライベート空間」から「ビジネス空間」へステージを移行しなければなりません。ビジネス空間にステージを移行した上で、認知を固めていくのです。相手からの(無意識のうちに分類されている)カテゴライズをずらしていく、この場合は「プライベートであった人⇒ビジネスであった人」にずらすということです。もちろん、それでも直ぐに商品は売れません。ただし・・・、

 

ビジネスであった人は多くの場合に認知してもらえます。

※ポイント:人を認知するのではなく、ビジネス内容を認知して人を紐づける

 

そして、レッドオーシャンに飛び込んで成功できない方はこれができていない方が多いのです。もちろん商品力は前提であり、そもそもレッドオーシャンに何故飛び込むのかという議論はありますが。

 

プロモーションとは費用を使って認知してもらうことだけが全てではありません。SNSでバズらせることを考えて、もしバズったとしても商品販売に直接つながることは少ないです(BtoCは別)。正直いうと海外という狭いコミュニティにおいて、有効なプロモーションは自身が動くということだと思っています。それなのに、多くの場合あまり、効果のないコスト(プロモーション費)を使っている印象があります。

 

もちろん上記は個人的な考えであり、あくまでも一例にすぎません。ただ、大切だと思うことは、自身はどのように海外で生きていくか(仕事をしていくか)のスタンスをしっかりと持って、戦略的にものごとを進めていくことだと思います。そうしなければ“先行者利得”には絶対に勝てません。

 

私もメキシコ及びタイに長期駐在しましたが、「ブルーオーシャン」であったメキシコでの戦略を「レッドオーシャン」であるタイでも同じように展開してしまい、最初は全くうまくいきませんでした。そのため、タイは新しい税制改正のみをターゲットとしてニッチに攻めて、何とか失敗せずに今日に至ります(今もこの部分は同業の会計事務所から仕事を多くいただいています)。

 

戦略はあまり多くのことをやろうとしても(特に設立初期の段階では)無理なので、2,3個ほど心に決めたことをやりきることが実は一番成果がでるのです。皆様の海外ビジネスが実り多きものとなることを願っています。

 

さて、今回で、「海外駐在で超えるべき壁シリーズ」は完結です。最後の方は、“海外駐在”というよりも“海外新規立上げ”のような内容になってしまいましたが、、、海外ビジネスは、より経営に近い部分が多いので、駐在員の皆様も是非参考にしていただければ幸いです。

 

【まとめ】

1.海外駐在で超えるべき壁①~生活編~

2.海外駐在で超えるべき壁②~仕事編~

3.海外駐在で超えるべき壁③~人間関係編~

 

【執筆者紹介】

JGA税理士法人

代表社員/税理士 片瀬 陽平

税理士業界が変遷する中、国際ビジネスのみが残された最後の領域であると考え、税理士法人時代から国際ビジネスに長く携わる。国際ビジネスには2種類(日本側・現地側が)あり、現地ビジネスに関しては、現地に駐在しなければクライアントにベストプラクティスの提案ができないと考え、2013年にメキシコに渡り、現地会計コンサルティングファームの立ち上げを行う。渡墨後は、日系企業のメキシコ進出サポート及び現地日系企業への経営コンサルティング(事業計画/年度予算作成、内部統制・不正調査、各種DD、連結パッケージ作成など)を主に行っていた。2016年にはタイに渡り、Bridge Note (Thailand)Co.,Ltd.(現BM Accounting Co.,Ltd)を立上げ、次いでインドネシアのPT. Bridge Note Indonesiaの移転価格事業部を組成した。また、2018年にタイ移転価格税制協力会の発起人としてタイ移転価格税制サービスレベルの底上げを行う。専門領域は、経営コンサルティング、インバウンド支援、国際税務コンサルティング、社内DX化など多岐にわたる