皆様こんにちは。JGA税理士法人/税理士の片瀬と申します。
前回の記事「医療法人化シミュレーション~節税効果~」についてはいかがでしたでしょうか。課税所得が1,000万円を超えるころから法人にすると税額は安くなる想定になりますが、税額が安くなるというだけで「医療法人化」を行ってはいけません。
医療法人化を検討するにあたり最も重要なものは「キャッシュフロー」です。
今までは個人事業であったため、個人のキャッシュフローのみを考えればよかったのですが、今後は法人と個人の2つの側面からキャッシュフローを検討しなければなりません。法人に少なからず留保していくので、個人という1つの側面では「個人事業のころよりお金たまらないなぁ」という印象を持つドクターがとても多い現状があります。
つまり、誤解をおそれずにいうと、「医療法人化は、個人所得を法人に移す行為であるため、個人所得だけに照準を当てると、キャッシュフローが減少する」ことになるのです。
皆様も周りのドクターから医療法人化は儲からないという言葉を聞いたことがあるかもしれません。数字とキャッシュフローを理解しなければ、「儲からないなぁ」という想いだけが募り、医療法人化を後悔することにもなりかねません。
そのため、節税効果だけに目を向けるのではなく、自身が生活するうえで(将来設計をするうえで)いくらのキャッシュが必要かを明確に示すことが必要です。
個人事業では事業用支出と家事用支出の線引きが曖昧なドクターも多くみられます。法人化すると家事用支出は更に厳しくみられることになりますので、その点からもキャッシュがたまらないという印象が生まれるかもしれません(本来は個人事業でもダメですが実態として曖昧なことも多い)。
このような要素も含めてどれだけのキャッシュが必要かを考えたときに、なぜか課税所得1,000万円をそのまま給与にしても足りないことが多いのです。本来は個人においても、事業支出のみを集計し、税引後の所得を生活費としているはずなのに・・・
※税理士に相談するとそのあたりも含めてシミュレーションをしてくれると思います。その部分のヒアリングがなく、額面金額のみで設計しようとする税理士は実務では使えませんのでご注意を。
また、医療法人化における「キャッシュフロー」を考える上で重要な要素に「借入金」があります。多くの個人開業医は手元資金で開業するのではなく、借入金により開業をしているという実態があるのですが、医療法人化に伴い、この「個人の事業上の借入金」の一部しか当該医療法人に引き継ぐことはできないのです。つまり個人に借入金が残ってしまい、それもまた個人のキャッシュフローを圧迫します。
その他にもご子息の学費など将来的に多額のキャッシュアウトフローが発生する場合には、それも含めていくらのキャッシュが必要かを明確に示すことが重要です。
【まとめ】
①生活費
②家事用支出VS事業用支出
③借入金(元本返済+利息支払)
④将来のキャッシュアウトフロー
⑤(個人・法人)保険の組み換え
⑥小規模事業共済等の返戻金など
これだけの要素を慎重に検討する必要があるのに、現在の生活費だけで医療法人化の判断をしてしまうと個人の生活が悲惨になります。
【検討する順番】
①個人及び法人のキャッシュフロー
②当該キャッシュフローを前提とした収益シミュレーション
③当該収益シミュレーションを基に計算された税額
④個人事業の頃の税額との比較による節税効果の検証
節税できると喜んでいたのも束の間でした・・・実はキャッシュフローにより、医療法人化を断念するケース(後悔するケース)が最も多いため、ここをまずは検討する必要があります。少なくとも下記の①だけで医療法人にしないように慎重にお願いします。
【節税VSキャッシュフロー】
①医療法人化により節税できる(ラッキー)↑↑
②キャッシュフローが想定に届かず断念(アンラッキー)↓↓
さて、次回はこのキャッシュフロー検証においても忘れがちな「個人の事業上の借入金」についてお話しします。個人の事業上の借入金は、その全額を法人に移せるわけではありません。法人化すると法人からは当該借入金の返済と利息は支払えないので、その部分も含めてキャッシュフロー検証を行う必要があります。「何を移せて、何を移せないのか?」、医療法人化においても重要な部分なのでしっかりと確認していただければ幸いです。
※当該記事はクリニック経営マガジンに掲載された記事のアーカイブとなります。