皆様こんにちは、JGA税理士法人/税理士の片瀬です。今回のコラムは「戦略メモシリーズ⑩~事業計画の策定(赤字企業)の四~」です。続きものですので、まだ~事業計画の策定(赤字企業)の壱から参~を確認していない方は先にそちらをご確認ください。
前回の最後に銀行から融資を受ける場合の「実現可能性」について記載しました。
「定量的な事業計画・予算」+「実現可能性の説明(変動要因の説明)」
今回は、この実現可能性を含めた資金調達のポイントについて、少し踏み込んで記載します。前回は既存事業で借り入れるのは少し弱いと書きましたが、新規事業も未だ始めていない(まだ始めたばかりの)事業のため、実現可能性の面からはこちらも弱い可能性あり。そのため既存事業において選択と集中を行い、部門を切り離して当該部門をこのコラムでいう新規事業と位置付けることも良いアイデアです。そのあたりは臨機応変に数字を作りやすい(儲かる)ことを行っていきましょう。
【ポイント①】
定量的な実現可能性をどのように高めるか
赤字企業には銀行からの積極的な提案はありません。そのため融資を申し込む際には積極的な提案をこちらから行うことが重要です。ただ、ここも苦手な方が多く、特に経営者は自分の想いを伝えて“完璧”と思うことが多いのです。もちろん大切ですが、定性的な内容は、実際にはあまり評価してもらえません。特に過去の成功体験は・・・という感じです。
ここでVCと銀行の違いをもう1つお話しします。
VCからの調達はプロモーション費用を盛り込んでPLを作成し、それを基に提案することでしょう。ただ、銀行はBS思考なので、正直プロモーション費用を嫌います。プロモーション頼みの事業計画は認められないことが多く、入れるとしても保守的に作っていく必要があります。ここがジレンマで、キャッシュが上手く回っていないのでプロモーションを打てない、プロモーションを打てたらキャッシュも上手く回るようになり、数字も作れるのにと考える経営者は多いです。銀行借入のための計画にプロモーションを入れるのであれば、どのように効果測定をするかを盛り込む必要があります。
銀行借入では、「実現可能性=保守的」と評価される傾向にあるので、実際にビジネスを走らせて必要な金額を合理的に見積り、かつ、保守的に見積もった事業計画を提出しましょう。保守的に見積もったとしても事業が回ることを前提として銀行はお金を貸すので、作成した事業計画は保守的であり、実現可能性が高いことを前提に話を進めていきましょう。
【ポイント②】
資金用途を明確にして新規事業の一時的な資金需要であること説明する
新規事業(部門・プロジェクト別)の定量的な事業計画・予算を作成しましょう。新規事業に係る資金スケジュールを明確にすることによって銀行も貸しやすくなります。一時的とは、例えば、設備投資に必要や、仕入に必要などが一般的です。特に仕入はロットに応じて割り引かれること(ボリュームディスカウント)が多いため、説明しやすいものになるかと思います。
ただ、ここにも落とし穴があって、実際にビジネスを走らせていたとしても新規事業はできたばっかりの部門。直接コストを負担させるだけで赤字になってしまうことがザラにあります。そのため調達を考える経営者は数字を盛ることが多いのです。数字を盛って作った事業計画は簡単に看破されてしまいます。ここで出てくるのもプロモ費用です。なぜかプロモ費用を保守的に考えたパターンと、ぶん回したパターンの事業計画を作成されることが多く、ぶん回しパターンでプロモ費用を借入れたいという要望が多い実情があるのです。
あくまでもプロモ費用は組成された事業にブーストをかけるためのものであり、事業を組成するための費用ではありません。借り入れた後の事業計画に盛り込んでいきましょう。
それでも赤字計画では借入を行うことは難しいので、損益分岐点をしっかりと把握してスケジュールを立て、必要最低限の直接費のみを新規事業計画に計上すること(なるべく早い段階で黒字化を表現すること)を行います。そもそもスケジュールをしっかりと立てなければ銀行に一時的な資金需要である旨を説明することができません。
また、この場合当該事業に係る間接コスト等は既存事業に含めるので、既存事業を含めた全体が債務超過にならないようにも十分に気を付けることが重要です。
【ポイント③】
コロナ融資も借金であることをしっかりと認識する
赤字企業の借入を長々と書いていますが、このような状況の会社は、現状は銀行借入ではなく、コロナ融資を受けることがほとんどです。ただ個人的には、コロナ融資には問題があると考えています。それは、、、
●簡単に借りられること
小規模事業者は、所有と経営の分離ができていない社長も多く、コロナ融資を受けた場合には使えるお金が純粋に増えたというイメージを持つ方が非常に多いです。「借入ですよ」というと「わかってる」と言われるのですが、目的なく借り入れたお金は、本当になんとなく消えていきます。個人的には非常にもったいないと思うところです。コロナ融資の場合にもしっかりと事業計画は立てることが必要です(無駄遣いがなくなります)。
最後のコロナ融資については、もったいないなぁと思うことが多いので付け足しで書いていますが、伝えたいことはポイント①とポイント②です。つまり・・・ベンチャー社長は「数字を盛らない」ということです(笑)。
【まとめ】
目的 ⇒資金用途・借入金額
定量的 ⇒定量予算・事業計画
実現可能性 ⇒保守的・根拠
スケジュール ⇒期間・時点
損益分岐点 ⇒黒字化
費用配分 ⇒調整
意識して丁寧に行っていけば、会社の内情も数字から理解できるようになるために少しずつでも、借入が必要ない場合でも、定量的なスケジュールは非常に重要なので試してみていただければ幸いです。
この第4回でお伝えしたものが、赤字企業の「積上方式の事業計画(予算)」です。重要なのは利益ではなくキャッシュフローです。何とかして借入を行って、営業キャッシュをプラスで回せるようなビジネスを組成しましょう。
さて、次回からは、黒字企業のパターンである「逆算方式の事業計画」の説明に入っていきますので、こちらも是非お楽しみに!
【まとめ】